連載⑩ 山田順の「週刊:未来地図」 「おもてなし」は素晴らしい文化なのか (4)

チップを廃止した主なレストランをリストアップ

 日本レストラン、USHGグループがチップ制を廃止したことにより、これに追随するレストランが増えた。とくに、USHGグループのなかの最高級店、ミシュラン3つ星「Eleven Madison Park」も廃止してしまったことは、業界に衝撃を与えた。「イレブン・マディソン・パーク」に実際に行った人間に聞いたところ、チェックには確かに「チップは受け取りません」と明記してあったという。
 そこで、どんな店がチップを廃止したか、ざっと調べてみた。まず、前記したUSHGグループの店はみなそうだ。これまで述べてきた「Shake Shack」「The Modern」「Eleven Madison Park」のほかに、「Union Square Cafe」「Gramercy Tavern」「Marta」「Untitled」などが挙げられる。また、以下の有名なレストランも、チップを廃止している。「Agern」「Annisa」「Biang西安名吃」「Bruno’s」「Café China」「Craft」「Fedora」「Freek’s Mill」「Huertas」「Meadowsweet」 また、日系レストランでは、以下のところがチップを廃止している。「Momofuku Nishi」「Okonomi/Yuji Ramen」「Ootoya」「Restaurant Riki」「Teisui」

「アメリカで日本化が進んでいる」という自画自賛

 あとで知ったことだが、このようなチップ廃止運動が進んできたことを、じつは、日本の一部メディアと一部のグルメライターや評論家は、「アメリカでも日本のおもてなしが認められるようになった」「アメリカで日本化が進んでいる」と、喜んだ。いま検索してみると、そういう見方をしている記事やブログなどが散見できる。
 要するに、彼らはなにがなんでも自画自賛したいのだ。たとえば、「日本のおもてなしは、見返りを求めず、誰にでも喜んでもらいたいとする点で素晴らしい」と言うのである。しかし、こんなことが喜ばしいことなのだろうか?
 どう考えても、レストランのチップ廃止が「日本化」であるはずがないし、USHGグループのCEOのダニー・マイヤー氏が述べたように、これは合理化の追求だ。チップがないほうが、顧客にとっても従業員にとっても、それに経営者にとっても合理的と考えた結果だ。
 そう思えば、逆に日本こそ、欧米のチップ文化を取り入れて、質の高い「おもてなし」はおカネがかかるということを示すべきではないだろうか?

チップなしで最高のサービスを
期待する厚かましさ

 私は、日本の「おもてなし」には、どこか胡散臭いものを感じてきた。それは、おもてなしが無償で提供されることで、客側がそれを当然だと思い上がってしまうことだ。
 よく飲食店で店員に文句を言っている人間を見かけるが、彼らの話を聞いていると、腹立たしくなる。たとえばファミレスでバイトの店員に、「おい、なんでぶすってしているんだ。お待たせしましたと笑顔を見せんか」なんて言っている人間を見ると、なんかとてつもなく理不尽なものを感じる。やはり、タダのサービスがあってはいけないと、つくづく思う。チップなしで、最高のサービスを期待するというのは、厚かましいのではないかと思う。
 現在、日本の接客業は、人件費を絞りに絞って、できる限り安い時給で雇用し、そのうえで「顧客至上主義」(お客さまは神様)によって、常に笑顔と丁寧さで接客することを従業員に要求している。これでは、従業員の負担があまりにも大きするるし、プロ意識などまったく育たない。日本の「おもてなし文化」は、個人の犠牲の上に成り立っていると言えるだろう。
(つづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、10月24日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。