「だったらサン・セバスチャンに行ってみるといいわよ」
スペイン北部の街ビルバオに着いた翌朝、フロントのおばちゃんにスペインのお勧めを尋ねてみると、そう返事が返ってきた。
「何たってスペインきってのグルメの街だからね。シェフやってんなら行かなきゃ」
「クアント・ティエンポ・タルダ?」
どれくらい時間がかかるのか聞いてみた。
「バスで1時間ちょっとあれば着くわ、海辺のとてもきれいなところよ」
食欲を刺激されてしまうとどうにもならない。ここから直接バルセロナへ向かいガウディにどっぷりと浸かるという当初の予定だったのだが、ぼくは次の目的地にサン・セバスチャンへ行くことを決め、どうせならその日に出発することにした。バスの時刻表はその頃まだスマホなるものはなかったのでターミナルへ行くまで分からないが、おばちゃんいわくひっきりなしに出ているとのことだった。
バスターミナルに着いて、乗り場を探すとすぐに見つかった。チケットを買ってしばしバスを待つ。他には家族連れがひと組。時おり大西洋の方角を眺める。湧き上がる雲。眩い夏の気層。
「どんな街だろう、美味いものいっぱい食べられるかな…」
スペイン料理と言えばシーフードやオリーブオイルをたっぷり使った南国の料理が頭に浮かんだ。しかもバスク地方ならではのグルメを思い浮かべると期待せずにはいられない。どんな食べ物があるのか、想像するとみるみるお腹が空いてきた。それに、海へ向かうというだけでなぜだか妙に心弾んだ。
山間のなだらかなハイウェイを走ること1時間、サン・セバスチャンに到着した。予約しておいたホテルに荷を降ろして細い路地に再び出たのは昼過ぎだった。腹は減っていてもここがどんなところかとりあえず把握したいので、海辺まで散歩してみることにした。
石畳の街を抜けると目に飛び込んできたのは、コバルトの海の色に大きな輪郭を描く海岸線。真夏の太陽を照り返す白いホテル群。そして思い思いのバカンスを楽しむ人々。なんだかその辺りからジェームズボンドでも現れそうな、そこはスペインきってのリゾート地だった。
つづく
Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
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