連載⑫ 山田順の「週刊:未来地図」 トランプ大統領最新情報(1)

2人の上院議員の引退表明に騒然とするメディア

 昨日(編集部註:本記事の初出は25日)のメルマガでも書いたように、「トランプは人格障害である」と断ずる専門家27人による分析本が出て、いま本屋に並んでいる。この本をざっと斜めに読んでみたが、やはり、トランプは本当に救い難い人物のようだ。要するに感情の赴くままに行動し、しかもナルシズムの塊であり、第三者を一切信用しない。まさに、人格障害であるから、大統領にふさわしくないというのである。実際、これを裏付けることは山のようにあるが、現在、こちらのメディアが大騒ぎしているのが、テネシー州選出の共和党上院議員ボブ・コーカーとトランプとの「Feud」(反目)が炸裂していることだ。
 今日も、テレビでは朝からこのニュースばかりが流れている。さらにこれに追い打ちをかけたのが、アリゾナ州選出の共和党上院議員ジェフ・フレークが、今日の午後、中間選挙に出ないで引退を表明したことだ。このこともあって、先ほどホワイトハウスのブリーフィングでは、副報道官のサラ・ハッカビーが記者からの質問攻めにあっていた。

「ホワイトハウスは大人のデイケアセンター」

 なぜ、このように身内である共和党議員がトランプを批判するのだろうか? 最大の理由は、これまでトランプ自身が彼らを目の敵にように攻撃(コーカーはこれを「Bulling=イジメ」と言った)してきたからだ。それで、すでに日本でも報道されたように、今月の10日に、コーカーが引退を表明したインタビューでトランプを痛烈に批判したことが報道された。
“Sometimes I feel like he’s on a reality show of some kind, you know, when he’s talking about these big foreign policy issues”
 「大きな外交政策課題について大統領が話しているとき、私は、彼がリアリティ番組かなにかに出ているかのようだと感じる」と述べ、北朝鮮問題を絡めて、「(トランプは)アメリカを第3次世界大戦への道に巻き込みかねない」と警告したのだ。
 コーカーのトランプ批判の極め付きは「ホワイトハウスが大人のデイケアセンター(adult day care center)になってしまったのは、残念な話だ」と言ったことだ。
 この“アダルト”(大人)はトランプを指しているから、周囲はみんなでトランプの暴走を防ごうと「お守り」をしていることになる。

政治素人のトランプに切れてしまったコーカー

 この指摘は、じつはみんなわかっていたが、これまで言わないようにしてきたことだった。しかし、コーカーは来年の中間選挙に出ないと決めたので、開き直ったのである。ボブ・コーカーは上院でも一目置かれる人物で、外交委員長も務めており、トランプよりはるかに政治家としてのキャリア、技量があると自他共に認められている存在だ。だから、トランプによってレックス・ティラーソン国務長官などの側近が振り回されている状況が腹に据えかねたのである。しかも、トランプはそれまで、穏健派の彼に対して「公約実現の弊害」などと非難する書き込みを連発していた。これでは、コーカーが切れるのも無理はない。
 ここで問題になるのは、アメリカの上院がいくら共和党がマジョリティとはいえ、52議席しか持っていないことだ。つまり、トランプに反旗を翻す共和党上院議員が少しでも出れば、議案は通らない。大統領はたちまち立ち往生してしまうのだ。コーカーはこの点もわかっていて、大統領に歯向かったと言うわけだ。

ジェフ・フレークの万感の思いの上院演説

 コーカーに続いて、引退を表明してトランプに反旗を翻したジェフ・フレークも、これまでトランプに散々コケにされてきた。トランプがもっとも怒ったのが、7月に、オバマケアの一部廃棄法案が通らなかったことだ。このとき、反対に回ったのがアリゾナ州選出の共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員と、フレークだった。以来、トランプはこの2人をツイッターで徹底的に攻撃してきた。
 フレークはTPP離脱が中国の影響力増大につながるとして、反対を表明してきたから、トランプは彼を心底嫌ってきた。だから、ツイッターでは「アリゾナ州の人々は犯罪や国境問題で軟弱なジェフ・フレークのファンではない」とまで言い、フレークに人格攻撃までしていた。これではフレークに切れるなと言っても無理だ。彼は今日、上院本会議で17分に及ぶ爆弾演説を行い、トランプに激しい非難を浴びせた。
 「個人攻撃、原理原則や自由、制度に対する威嚇、真実や品位への目に余る等閑視」そして「非常にささいな理由による挑発」などが「われわれの現在の政治においてあきれかえるような特徴」になっていると指摘し、そのような状態は「断じて正常なこととみなされるべきではない」と述べたのである。さらに、彼は万感の思いでこう結んだ。
 「私には答えを示すべき子供や孫がいる。私は加担も沈黙もしない。私は今日、2019年1月初めの今任期終了をもって上院での任務を終了することを発表する」(つづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、10月30日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。