クビになったバノンの力は衰えていない
いまやトランプはホワイトハウスの側近から議会、そしてメディアまで、ほとんどを敵に回して、勝手なことを言い散らかしている、信じがたきアメリカ大統領となった。そもそも、共和党の保守過激派の最大の支援者、ロバート・マーサー(ル
ネッサンス・テクノロジーズCEO)によって送り込まれた首席戦略官スティーブ・バノンを首にしてしまったのだから、自己愛のカタマリ男としか言いようがない。誰のおかげで大統領になれたのかさえ、忘れてしまう男なのだ。
バノンは、現在、古巣のオルタナ右翼メディア「ブライトバート」の主幹に戻り、マーサの支援を受けて来年の中間選挙の候補者選びに入っている。当然だが、トランプが攻撃してきたコーカーやフレークに対抗馬を立てる準備もしていた。それを察して、2人は引退を表明したとも言えるが、バノン自身はトランプをサポートしているわけではない。
実際、彼はトランプが4年の任期を全うする可能性は30%しかないと言ってい
ると、ジャーナリストのガブリエル・シャーマンが雑誌『Vanity Fair』の記事で明かしている。
バノンは次の中間選挙では、テッド・クルーズを除く、共和党上院議員全員の交代を目指すと明言しているとも言う。バノンは、ロバート・マーサーの支援を受けているだけではない。カジノ王のシェルドン・アデルソン、海運王のリチャード・ウイエレイン、ヘッジファンドの大物ポール・シンガーなども、彼に大口献金をしているので、トランプは彼を敵に回すことはできない。
トランプは憲法修正第25条を知らなかった
バノンは辞任前、トランプに、合衆国憲法修正第25条によって大統領が解任される危険性について警告したと言う。すると、トランプは「なんだ、それは? 」と聞き返したというから呆れる。
昨日(編集部註:本記事の初出は25日)のメルマガでも書いたが、アメリカ憲法修正第25条4項1は、「副大統領が大統領は肉体的精神的に職務遂行が困難を判断した場合、閣僚の過半数の賛同を得て、辞任を促すことができる」となっている。つまり、副大統領と閣僚の過半数(24人中13人)が賛成することで、大統領を首にすることができるのだ。じつは、弾劾裁判より、こちらの可能性も高まってきたというのが、トランプ政権の現状だ。
はたしてトランプ政権が今後どうなるのかはまったくわからない。しかし、こんなトンデモ大統領の治世でもアメリカの経済は回っていて、バブルかもしれないがダウは絶好調である。
日本政府は今日、トランプが11月の来日時に天皇皇后両陛下と会見を持つことを発表した。また、安倍首相とプロゴルファー松山英樹を交えたゴルフも予定されている。もはやただ、黙って見ているしかないだろう。
(了)
【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
この続きは、10月30日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。