存続の秘密はプライドと愛情
古いルールと権威主義に反発する若者たちの「戦闘服」として100年以上愛され続けてきたショットの革ジャン。そういえばブルース・スプリングスティーンが「明日なき暴走」(1975年)のアルバムジャケットで着ていたのがショットだった。最近ではジェイ・Zやカニエ・ウエストそしてレディ・ガガもショットを愛用している。長寿人気の秘密はどこにあるのか? 単なる「反逆のシンボル」だけではないだろう。
1999年から経営の指揮を執っているCOOのジェイソン・ショットさんに聞いてみた。創業者アービンから数えて4代目の社長だ。
「製品に対する計り知れないプライド。『パルフェクト』ブランドのクオリティーを守り続ける誇り。613や618など定番ライダーズジャケットへの愛情。それらが根幹にあるからこそ、『大海の中のイワシ』みたいな会社なのに100年も生き延びているのです。そしてメイド・イン・アメリカへのこだわりですね」
驚くべきことにショット製品は、現在でも、ほとんど全てニュージャージー州の自社工場で製造されている。製法も縫製用ミシンも100年前とほぼ同じだ。従業員は100人足らず。中には親子2世代にわたってショットで働く職人もいる。米国で販売されているアパレル製品の97%が外国産という時代にあって、ショットは頑なに生産拠点の海外移転を拒んできた。それどころか、国内にすら第2工場を作ろうとしない。1990年代に殺到する注文に応えるべく一時テネシー州に工場を建てたが、製品のクオリティーが管理しきれないとの理由ですぐに閉鎖した。
「本物の革ジャンを作るためには、経験に根ざした職人の技術が必要です。例えば素材は最高級の牛皮、羊革、馬革を使い分けますが、色や肌合いのマッチングを見極めるのは人間の目。ナイフ1本で正確に皮をカットするのは人間の手。パーツの型抜きも昔ながらの手作業ですし、出荷前の検品に至るまで、全行程にショット製品を知り尽くした従業員たちのクオリティーに対する厳しい姿勢が貫かれているのです」
体張って物作る姿勢貫く
国内の人件費は高騰の一途。家賃、光熱費、資材費など米国内で作れば、当然コストはかさむ。その分、ショット製革ジャンの価格は1着700から1000ドル以上となり、他社ブランドに比べて断トツに高い。しかも、ネットショップの台頭で実店舗に洋服を買いに来るお客は減り、アパレル業界の生存競争はさらに過酷になっている。
「ショットの特約店も随分潰れました。でも悲観はしていません。マンハッタンの直営店(1軒のみ)に買いに来るお客さんが確実に増えているからです。ショットの良さを分かる人は絶対にいるのです。そういうお客さんは決して目立たない。むしろアンダーグラウンドな存在です。でも彼らは、1000ドルのライダーズジャケットを高いとは思いません。ショットの製造工程と歴史を知っているからです」
アンダーグラウンドと聞くと、ショットが歩んできた「反逆スタイル」とイメージが重なる。誰もがこのブランドが持つ静かな反抗的態度に惹かれるのだろう。
実店舗販売を直営店中心にシフトしているショットでは、2014年にロサンゼルス、そして今年はシカゴの流行スポット「バックタウン」に直営店をオープンした。
「この9月に渋谷でグランドストア・トーキョーを開けたんですよ」とジェイソンさん、大事な情報を言い忘れていたようだ。「日本人は90年代からショットの魅力を理解してくれました。日本ほど『ショット愛』の強い国はないのではないかとも思います。2009年の初上陸以来、これで7店舗目です」
大統領が声高に叫ぶ「メイド・イン・アメリカ」は虚ろに響くばかりだが、本物のメイド・イン・アメリカには100年以上生きる力がある。そして、それを支える人々が世界中にいる。大事なのは、誇りを胸に、体を張って物を作る姿勢だ。(了)
*次回は12月1日号掲載。
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Schott NYC
正式名称はSchott NYC。1913年ニューヨーク市マンハッタン区で創業。皮革製のジャケットに初めてシッパーを採用し、ライダー用ジャケットを開発。以降、世界中の革ジャンマニアを虜にしてきた。「Perfecto Motorcycle Jacket」と命名されたラーダーズジャケットは1953年の映画「乱暴者」でマーロン・ブランドが着用するなどして一大ブームに。第二次世界大戦中は米軍の、戦後は警察のユニフォームを製造。1世紀を経ても創業家が経営している。
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取材・文/中村英雄 映像ディレクター。ニューヨーク在住26年。人物、歴史、科学、スポーツ、音楽、医療など多彩な分野のドキュメンタリー番組を手掛ける。主な制作番組に「すばらしい世界旅行」(NTV)、「住めば地球」(朝日放送)、「ニューヨーカーズ」(NHK)、「報道ステーション」(テレビ朝日)、「プラス10」(BSジャパン)などがある。