連載⑯ 山田順の「週刊 未来地図」 習近平の権力強化で深まる日本の危機(後編1) なぜ日本は中国をいつも見誤るのか?

 日本の総選挙は、予想通り自公が圧勝し、今後も安倍政権が続いていくことになりました。これで少なくとも、安倍政権は2020年までは続くのは間違いありません。一方の中国も、5年に1度の中国共産党全国代表大会で習近平政権の基盤が強化され、こちらもまた2022年まで続くことになりました。となると、“中華民族の偉大なる復興”を目指す「中国の夢」は、日本にとってさらに大きな脅威となってきます。
 そこで、今回も前回に続いて、対中関係について述べますが、歴史的に日本の対中政策は今日まで間違ってばかりいます。なぜいつも日本は中国を見誤るのでしょうか?

共産党大会で「習近平・中国皇帝」が誕生

 5年に1度の中国共産党全国代表大会は、予想された通り、習近平(64歳)の「政権基盤強化」が着実に進んだ。
 注目されていた党の内規による定年(68)を超えた王岐山・中央規律検査委員会書記の続投はなくなったが、これは習近平が党内調和を重視した結果。68歳以上の5人全員が引退した。しかし、それ以外の点では、習近平は敬愛する毛沢東に限りなく近づき、ほぼ独裁体制を完成させたことになる。まさに「習近平・中国皇帝」が誕生したと言っていい。
 したがって今後の中国は、習近平の悲願である「中国の夢」に向かって邁進して行くことになる。これは、日本にとっては、迷惑このうえない話である。もちろん、周辺諸国にとっても同様だ。今後、中国の周辺国は、北京に対して、旧来世界のような「朝貢外交」をやるかどうかの選択に迫られる。
 少なくとも、紛いなりにも資本主義をやる国で、こんな超強権政治体制が完成してしまっていいのだろうか? 資本主義のベースは個人の私有財産を認めることにあるので、そもそも王権のような絶対権力とは矛盾する。しかし、中国人たちは、そんな矛盾などどうでもよく、国家とともに個人も繁栄していけばいいと考えているようだ。中国のエリートも一般大衆も、この点では同じだ。
 なぜなら、民主化、自由化を本気で受け入れたら旧ソ連のように崩壊してしまうと、彼らが思っているからだ。それなら、習近平独裁の方がまだましだと、そう考えていると、北京の消息筋は教えてくれる。

「総書記説了算」で習近平の仰せの通り

 今回の共産党大会と合わせて、中国のメディアは2つの言葉を喧伝した。
 1つは「藍山緑山就是金山銀山」。これは、直訳すると「青山も緑山もすべては金山銀山」となる。これが意味するところは、習近平総書記の治世によって中国全土が「金山銀山」になり大いに繁栄したということだ。
 もう1つは「総書記説了算」。これは、漢字を見ただけでわかると思うが、「習近平総書記が言ったらそれで決まり」という意味だ。つまり、習近平はすべて正しい。その仰せの通りにすればいいということで、まさに、習近平が「中国皇帝」になったことを象徴している。

敵視政策から宥和政策に転換した安倍政権

 そんな中国に対して、日本のスタンスは変わらない。総選挙の結果、安倍政権が継続することになったので、日本の対中政策は変わらない。安倍政権は北朝鮮に対しては強気だが、これはそうするしかないからだが、じつは中国に対してはこれまで多大な配慮をしてきている。
 これは中国の機嫌を害したら、北朝鮮を抑えられないという危惧からかもしれないが、あまりに引きすぎである。靖国問題の是非はともかく、靖国参拝が中国に対する「日本は中国の言う通りにはならない」と言う姿勢のアピールだとしたら、小泉時代と比べたら、あまりにも弱気だ。実際、今年の8月15日の終戦記念日には、37年ぶりに、現職閣僚が1人も靖国神社に参拝しなかった。また、先月、9月28日、東京の中国大使館で行われた国慶節(中国の建国記念日)の祝典に、安倍首相は日本の首相として15年ぶりに出席している。
 今回の総選挙前に官邸筋から聞いた話によると、選挙で勝ったら安倍首相は、年内に、北朝鮮問題などをテーマに、日中韓3カ国の首相会談を開くことを中韓に持ちかけるという。そして、最終的には来年早々に習近平に訪日してもらう意向だというのだ。つまり、安倍政権は、これまでの中国敵視政策から、目立たないように、親中国路線に転換してきているのである。その最大のポイントは、今年の6月に行った国会演説に現れている。このとき、安倍首相は「中国の一帯一路構想に日本が参加し、一帯一路と日本のTPP11をつなげたい」という画期的な内容の発言をしたのである。
 これは受け取り方によっては、東アジアにおける中国の覇権を認め、その政策に従うということの表明である。もともとTPPは中国の環太平洋地域への進出を阻む「中国包囲網」である。それを、アメリカがいなくなったので、180度転換してしまおうというのだ。

まったく期待できないトランプの北京訪問

 はたして、このような日本の中国政策の転換をアメリカ政府が認めているのかどうかは定かではない。トランプには外交を大局的に判断する能力がない(2国間のことしか頭にない)ので、なんとも論評しようがない。しかし、対米従属ばかりにへきえきしている外務省のチナスクールが、安倍首相に対中融和を持ちかけたのは間違いないだろう。
 トランプは11月になると、ついに東アジアにやってくる(編集部註:本記事の初出は10月24日)。日本、韓国に続いて、北京に乗り込む。皇帝となった習近平と直接談判する。
 大方の見方では、トランプは北朝鮮に対する中国の圧力を強めることを習近平に要請するという。これが米中会談の最大のポイントだという。しかし、彼の頭の中では、そんなことよりも、中国との貿易問題で習近平を黙らせることの方が優先しているはずだ。要するに、アメリカのオレさまのほうが、オマエより偉いんだと見せつけたいだけなのだ。
 さらに突っ込んだ外交分析では、もしアメリカが北を攻撃したら、そのとき中国がどうするかを問い詰めると言われている。中国が参戦せずに黙認し、金正恩政権の崩壊を黙認したら、その後、北朝鮮を中国とどうやって統治するかまで突っ込んで話すという。しかし、金正恩を「ロケットマン」と呼んでいるトランプに、どんな知恵があるというのだろうか?
 その場だけの口先発言しかできない大統領を、北京は完全に見透かしている。おそらく盛大な歓迎と敬意を示し、貿易問題での手土産を渡し、トランプの自尊心を満足させて終わりだろう。

ロケットマンはリビアのカダフィが反面教師

 いまや、どんな制裁をしようと、北朝鮮が核ミサイルを放棄しないのは明らかである。中国にすらできようがないこともわかりきっている。そこをロシアのプーチンが虎視眈々と突いてきて、東アジアでの権益を持って行こうと画策している。まるで、一昔前、日清戦争が始まる前の状況と酷似している。
 金正恩は単なるロケットマンではない。父親や周囲の茶坊主から、リビアを“反面教師”とすることを徹底して叩き込まれている。リビアの独裁者カダフィは、欧米と合意して核開発を放棄し、アメリカの「テロ支援国家」指定から除外してもらう道を選択した。ところが、「アラブの春」運動が起こる(誰が仕掛けたのかはわからない)と、欧米諸国はカダフィを見捨て、反体制派に加担した。こうして、カダフィは殺害されてしまったのである。この「リビアの教訓」がある限り、日本の“小市民”たちが唱える「話し合い解決」はあり得ない。しかも、中国、ロシアはこの教訓を逆手に利用している。(つづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、11月10日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。