連載⑰ 山田順の「週刊 未来地図」 習近平の権力強化で深まる日本の危機(後編2) なぜ日本は中国をいつも見誤るのか?

日本にとって中国は「泥沼」に過ぎない

 本来、日本の対中スタンスはアメリカによって決まる。これは、この約1世紀半の近代史を見ても明らかだ。ペリーは中国利権を求めるために、その中継基地としての日本を開国させるためにやってきた。
 日清戦争も日露戦争も、当時の世界覇権国・大英帝国と次期覇権国アメリカが、中国での利権を守るために、日本に代理線戦争を仕掛けさせたと見ることができる。日清戦争では清帝国を崩壊させ、日露戦争ではロシアの南下を食い止めた。
 しかし、日本の力が強まると、欧米列強は手の平を返して日本封じ込めに政策を転換した。こうして、それまで見捨ててきた中国に加担し、民国・蒋介石ばかりか共産・毛沢東までを助けた。その結果は?
 日本は対中戦争の泥沼に引きずり込まれ、最終的に対米戦争に踏切らざるを得ないところまで追い込まれた。そして、ついに暴発して、日本史上最大の勢力圏と利権をすべて失ったのである。
 この教訓は大きい。要するに、中国とは中途半端に関わってはいけない。宥和政策、友好政策を進めても、それは一時的な利益しかもたらさず、最終的には無益しかもたらさない。つまり、中国とは一線を画くし緊張関係を持たないかぎり、日本文明はもたないと考えるべきなのだ。

天安門事件後の経済制裁をいち早く解除

 ここ30年を振り返っても、結局、中国は日本から奪うだけ奪って、なにも与えてはくれていない。もらったのはパンダだけではないか? 日中友好など口先だけである。なぜ、日本は中国をつい甘く見てしまうのか? 私にはどうしても解せない。
 1989年6月、天安門事件が起こった後、西側諸国は中国に対して厳しい経済制裁を実施した。そのため、改革開放以来続いてきた中国の経済成長は前年の11.3%高成長は4.1%まで急減速した。おそらく、そのまま行けば中国経済は崩壊した可能性がある。ところが、この窮地を救ったのは、経済制裁をいち早く解除した日本である。1990年、わが国は中国に対する第三次円借款の凍結を解除した。事実上の制裁解除である。そのため、これを契機に、欧州共同体(EC)が武器禁輸を除く対中措置を解除し、以後、次々に経済制裁も解除されたのである。
 当時の世界がどうだったかといえば、1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、東ヨーロッパは解放されていた。そして1991年12月には、ついにソ連が崩壊している。つまり、共産主義は終焉を迎えていたのだから、中国共産政権だけを生かし続けることはなかったのだ。それなのに、日本が経済制裁を解除したことで、北京は息を吹き返してしまったのである。

歴史的大転換となった天皇陛下の訪中

 そして、1992年、鄧小平が「南巡講和」を発表し、同年10月の第14回の共産党大会で江沢民総書記が「社会主義市場経済体制の確立が改革の目標であり、対外開放をいっそう拡大する」と述べたことで、日本はまたまた中国に最大のプレゼントをすることになった。
 歴史上初めての天皇陛下の訪中である。これは中国にとって、まさに「渡りに船」だった。経済制裁でダメージを受けた失地を一気に回復できるチャンスとなったからだ。中国は天皇陛下を大歓迎した。そうすることで、中国は欧米諸国の友人であるとアピールしたのだ。
 以後、日本企業は大挙して中国に進出した。日本の対中投資は一気に伸び、欧米諸国もこぞって対中投資しるようになった。韓国は、これを好機として中国に擦り寄り、国交を回復させた。

「中国の恩に報いた」ヤオハンの失敗

 日本人は「お人よし」と言うほかない。これを象徴しているのが、中国進出の先駆け企業となったヤオハンである。
 会長の和田一夫の回想によると、1992年、北京に百貨店を出店したときは、恐る恐るだったという。しかし、これが成功したため、3年後の1995年、上海にさらに大規模な百貨店を出店し、これも大成功を収めた。これは中国側が影に日にサポートしたからだろう。ただ、新興宗教「生長の家」の信者である和田には、世界中が繁栄する一つの家になるという信仰があった。和田は次のように述べている。
  「中国への思い入れというか、ご恩返しということがあります。中国は日本との戦争で、あれだけ大変な目に遭ったのに日本を分割統治することに反対し、いっさいの対日賠償を要求しなかった。一番被害を被った国が賠償を放棄してくれたおかげで、戦後の日本は繁栄できました。だからこのご恩はくれぐれも忘れてはいけません。ですから、私は、その恩ある国が困っているのを見て、私にできることはないだろうか、中国のご恩に報いる道はないだろうかと考えて、香港への移住を決意したのです」(ウイキペディアより)

トランプは「人格障害」という本が出版

 2005年、中国全土で「反日デモ」が繰り広げられて以降、日本企業の中国撤退が始まった。すでに、多くの企業が足場を中国から新興アジア各国に移している。やっと、日本人は中国(北京政権)の本質に気がついたと言えるだろう。
 現在、私は日本を離れてアメリカに滞在中だ。こちらへきて、本屋に行き、トランプを精神分析している本『The Dangerous Case of Donald Trump』(ドナルド・トランプの危険なケース)が出ているのを知った。
 ハーバード大学、スタンフォード大学、NYUなどの精神科医や臨床心理士27人がトランプの精神状態を徹底分析した本で、すでにベストセラーになっている。この本によると、トランプは「第三者を一切信頼しない極度のパラノイア」「抑えの効かない極度のヘドニズム(快楽主義)」であり、明らかな「人格障害」であるという。アメリカ憲法修正第25条4項1「副大統領が大統領は肉体的精神的に職務遂行が困難を判断した場合、閣僚の過半数の賛同を得て、辞任を促すことができる」が適用されると、辞任に追い込まれるというのだ。
 皇帝と人格障害者に挟まれてサンドイッチ状態になってしまった日本。この窮地をどう凌いでいけばいいのだろうか? (了)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、11月10日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。