連載⑲ 山田順の「週刊 : 未来地図」憲法改正前に知っておくべきこと(前編2)なぜアメリカは「平和憲法」をつくったのか?

憲法の正体を知りたければ「英文」を見るべき

 誰もが学校で習ったように、憲法前文は、次のようになっている。以下、日本文と英文を示す
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 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
 We, the Japanese people, acting through our duly elected representatives in the National Diet, determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land, and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government, do proclaim that sovereign power resides with the people and do firmly establish this Constitution.
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 なぜ、ここに英文を示したかというと、アメリカがつくったのだから、憲法は英文が「原文(正文)」であるからだ。つまり、日本文は添え物にすぎない。となると、憲法の性格を知りたければ、英文を見るしかないことになる。では、この憲法前文の英文の何が、いちばん重要なのだろうか?
 それは、「We, the Japanese people」という、いきなり1人称で始まることである。日本の伝統的な法に、このようなかたちで始まるものはない。この「We」で始まるパターンは、じつは「アメリカ合衆国憲法」(United States Constitution)とまったく同じである。
 それでは、アメリカ合衆国憲法はどうなっているのだろうか?

「We」で始まるのは「独立革命」があったから

 以下が、アメリカ合衆国憲法の前文である。これを見れば、日本国憲法の前文がアメリカ憲法と同じ発想でつくられていることがわかる。
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 We the People of the United States, in Order to form a more perfect Union, establish Justice, insure domestic Tranquility, provide for the common defense, promote the general Welfare, and secure the Blessings of Liberty to ourselves and our Posterity, do ordain and establish this Constitution for the United States of America.
 われら合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここにアメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。
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 ではなぜアメリカ憲法は、「We」で始まっているのだろうか?その答えは簡単だ。アメリカがイギリスから独立したからである。アメリカは「独立革命」によってできた国である。したがって、この「We」は、独立を望んだ人々全体のことを指すが、誰に向かって言っているかと言えば、イギリス国王に向かって言っているのである。
 となれば、私たち日本人には、ハナからそんな意識はない。いったい、日本はどこから独立しなければならないのか? いくら天皇制国家だからといって、日本は日本人自身が建設した国家である。つまり、アメリカは無理矢理、戦後の日本に憲法による「独立革命」を押し付けたのである。

なぜ「people」が大文字ではなく小文字なのか?

 さて、ここでもう一つ大事なことがある。アメリカ合衆国憲法では「We the People of the United States」と「people」が大文字になっているのに対して、日本国憲法では小文字になっていることだ。
 なぜこうなったかは推察するしかないが、おそらくは、憲法をつくったアメリカ人のマインドが大文字にすることを嫌ったからだろう。要するに、日本人は大文字にするような人々でなく、単なる「日本人たち」と言いたかったのではないだろうか?
 実際、憲法の成立過程を調べて見ると、マッカーサー草案では、《We, the Japanese People acting through our duly elected representatives in the national diet, 》(我等日本国人民ハ、国民議会ニ於ケル正当ニ選挙セラレタル我等ノ代表者ヲ通シテ行動シ:外務省訳)と、当初「people」は大文字になっているのだ。
 これを途中で、誰かが小文字にしてしまった。つまり、アメリカ人の視点で日本人を見たのである。言うまでもないが、ここでの「We」は単なる「日本の人々」であり、「日本国」や「日本国民」ではない。しかも、アメリカ合衆国憲法と違って、「We」「the Japanese people」の間に「,」(コンマ)を打ってある。これは同格のコンマで、わざわざ「We 」と 「the Japanese people」がイコールの関係にあることを示している。
 このように、英文を見てくれば、これはアメリカ人がつくったもので、日本のリベラルの主張とはまったく違って、日本国民の意思などどこにも反映されていないことがわかる。(つづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、11月10日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。