指輪のように白い砂浜に囲まれたコバルトブルーの夏の波。バカンスで賑わうサン・セバスチャンのビーチに出ると、ぼくは裸足になった。しばらくはこの空と海の広さを満喫しようと、靴を両手に風を深く吸った。ただ灼けた砂は思ったよりも熱く、砂浜に慣れていない足の裏がジンジンしてきた。なので真夏のビーチはひとまず離れて街へと戻ることにした。
趣のある古き通りにはバルが軒を連ねたくさんの人で混雑していた。ここ「ピンチョス」発祥の通りには、どのバルのカウンターにも自慢の皿が並べられており、この中から一店を選ぶというのはなかなかに難しいものだ。ぼくはとりあえず勢いで一軒のバルに入った。
「オラー」
どれも美味しそうなピンチョスに目移りしながらバーテンに食べ方を訊いてみた。並べられた小皿を好きなように取って食べていいそうだ。ハモン・セラーノに、オリーブ、アンチョビ、キンディラ・ペッパー、そして新鮮な魚介、次々と試してみる。
ところでピンチョスとは何か。スペインといえばタパスが知られているが、双方ともひとことで言えばスペインの居酒屋的な一品だろうか。なかでもピンチョスの特徴はスライスしたバゲットにトッピングをのせたフィンガーフード的なものが多い。立ち飲みでカウンターに並べられた皿を取って最後に拭ったナプキンを床に捨てる。なので床が散らかっているほど美味しいバルの証。そしてなんといっても醍醐味は「バルのはしご」、これだ!
またピンチョスと合わせるのが微発泡白ワインのチャコリ。1年以内に飲まれるフレッシュで酸味があるバスク地方の特産品。高く上げたボトルからグラスへ注がれたチャコリで喉を潤せば、また自然とピンチョスに手が伸びてしまう。
数軒のバルをハシゴしたあと、ある店のカウンターのピンチョスが目に入った。バゲットの上には3センチくらいの茹でた細長い小魚たちが盛られて、これがけっこうな存在感。例えるならギリシャ神話の怪物メドゥーサみたいな感じだ。そしてさらによく覗いみると、この愛嬌のある頭にはどこか見覚えがあった。
「もしかしてこいつは…」
つづく
Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
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