連載㉖ 山田順の「週刊:未来地図」なぜアメリカと日本はここまで違うのか?(前編2) 旺盛な消費を牽引する 〝返品自由文化〟に脱帽

洋服から日常用品、食料品、なんでも返品可能

 ところで、このような旺盛な消費を支えているのは、日本では考えられないアメリカ独特の“返品自由文化”だ。リアルにしてもオンラインにしても、アメリカの消費者性向は日本とまったく違う。このことは、ニューヨークで買い物をしてみて、今回、本当に実感した。
 家内につきあって「メイシーズ」「ブルーミングデールズ」「ノードストローム」などに買い物に行ったが、返品カウンターはどこも行列ができていた。また、返品カウンターのない店では、一般レジに返品をたくさん抱えた客が並んでいて、レジがなかなか進まないということに何度も遭遇した。
 ともかく、アメリカ人はなんでもかんでも返品する。店も返品を簡単に受け付ける。だから、半年前に買って何度か着たものでも、平気で返品に持って行く。買う前にサイズを確かめればいいのに、「着たらサイズが合わなかった」と言って、5、6着も返品する人間はザラだ。
 なにしろ、「返品自由」という、信じられない“文化”を最初に導入した「ノードストローム」には、「返品ポリシー」(リターンポリシー)というものがない。返品理由などどうでもいいのである。
 返品した場合、その場で現金を返してもらうか、新しい品物に代えてもらう。あるいは、「ストアクレジット」をもらう。これは、返品したその金額分のモノをそのお店、系列店、もしくはオンラインで使えるカードだ。だから、ストアクレジットをもらっておいて、そのうちほしいモノが出てくるまで待ち続けるという人間も山のようにいる。
 ここまでは洋服や靴の話だが、驚くのは、電気製品から日常品、そして食料品まで、ともにかくなんでもかんでも、アメリカでは気に入らなければ返品できてしまうということだ。

「まずい」「賞味期限切れ」でも返品スルー

 食品スーパー大手「トレーダージョーズ」も、返品ポリシーがない。無条件の返品保証を宣言している。したがって、1度購入した食品でも「食べてみたらまずかった」という理由で返品できる。
 知己のニューヨーク駐在員は、こう言った。
「日本では、賞味期限が切れたら普通、諦めて捨てますよね。しかし、トレーダージョーズに持っていけば代えてくれます。カスタマーサービスのカウンターに『リターンお願いします』と言って出すだけで、理由も聞かれないし、購入したときのレシートも要求されません。もっともカードなら履歴を確かめられるので、レシートなど見ようともしないのでしょう。
 だから、何点でも返品したければ持っていけばいいんです。出せば、返品レシートに記入してくれて、お金が返ってきます。しかし日本人ですから、さすがにそんなことまでできませんよ。ただ、こっちの人間はやっています」
 現在、マンハッタンのチェルシーに住んでいる私の娘のアパートの近所には、「フェアウェイズ」「ホールフーズ」「トレーダージョーズ」の3店がある。私は、娘や家内に頼まれて、「トレーダージョーズ」に行くことがあるが、ここのレジはいつも長い行列ができていて、本当にイライラする。
 日本のスーパーで食品を返品することは、明らかな欠陥品を除けばあり得ない。日本の小売業界では、店によってさまざまな返品ルールを決めている。
 ただ、一般的なのは購入後2週間~2カ月で返品可能、ただし返品であって返金なしというものだろう。しかし、アメリカでそんなことをしたら、その店はすぐに潰れてしまうだろう。

「買う前に考える」日本人「買ってから考える」アメリカ人

 このような“返品自由文化”があるから、アメリカ人の買い物の仕方は、日本人とは違う。正反対と言っていい。ともかく、ちょっと気に入っただけで買ってしまう。気に入らなくなればあとで返せばいいと思っているからだ。
 「ZARA」や「H&M」に行くと、試着などしないで何着もカゴに入れている人を見かけるのは、このためだ。また、値段も予算も関係ない。返品して返金してもらえばいいからだ。つまり、日本人は、「買う前に考える」が、アメリカ人は「買ってから考える」のである。
 私の家内は優柔不断で、洋服を買う場合、似合うか似合わないか、サイズは大丈夫か、持っている服と組み合わせられるかなど、ああでもないこうでもないと、飽きずにやっている。だから、1着買うのに、1時間以上もかかり、それも何店も回ることがある。
 そのたびに私は、いつも店内にあるソファなどで時間を潰すことになるが、この時間は本当に無駄で、居心地が悪い。
 そこで私は、「ここはアメリカだ。返品は自由なんだから」と文句を言うが、まったく聞いてくれない。習慣というものは恐ろしいと思う。また、家内に言わせると、「買い物は悩むのが楽しいの」となる。
 しかし、私には買い物は“忍耐”としか思えない。(つづく)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

この続きは、12月12日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。