Jayシェフ 世界の食との小さな出逢い 最終回 うなぎのピンチョス④

イラスト Jay

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 「やっぱり、シラスウナギだ!」
 日本でもなかなか口にできないだろうウナギの稚魚「シラスウナギ」。まさかスペインで食べられるとは、サン・セバスチャンまではるばるやって来たかいがあったというものだ。このピンチョスは長さ3センチくらいのシラスウナギをオリーブオイルなどで和えバゲットにのせたシンプルな一品のようで、もちろん迷うことなく皿を取った。
 口に入れると、途端に弾けるあの懐かしき味。これは旨い、旨くて笑い出してしまいそうなくらい。蒲焼とは違った、しかしどこか懐かしく奥深くそして上品な味わいに、ぼくはすっかり魅了されてしまった。その後どうしたかといえば「ウナギのピンチョス」ばかり狙って、この通りのバルを次々とハシゴし始めたのだ。赤ピーマンのピキーリョと合わせていたりと、バルによりレシピも違っていてどれも美味しかった。きっとニヤニヤしながら細い石畳を歩いていたに違いない。
 忘れられない料理と出逢うと、たとえそれが小さな出逢いであってもいつまでも鮮やかな色彩を放ち続ける。それは例えば、気が遠くなるような猛暑のベトナム、目の前の圧搾機でバリバリと搾るサトウキビジュースの繊細な甘さで喉を潤したことや、モロッコの手作りヨーグルトが病みつきになったこと、メキシコの焼きたてトルティーヤの香ばしさにウットリとしたり、奥深いラオスの紅いもち米のあまりの美味しさに毎朝起きるや市場へ飛んで行ったこと、そしてペルーの黒ビールのコク深さに驚いたこと…。今でも出逢いひとつひとつの輝きが心に映る。
 その翌日もバルの並ぶ石畳みを一日中歩き回った。もちろんウナギのピンチョスを探しながら。そして夜になり、ぼくは夜行バスに揺られていた。窓の外を眺める時間だけが静かに流れる星空の下で。目的地はバルセロナ。そこは我が師ガウディの作品が溢れる街。そう思うだけでとても眠れそうにはなかった。
おわり
お知らせ
 今回をもちまして「世界の食との小さな出逢い」を終了させて頂きます。小さくてもたいせつな食べ物の想い出を綴らさせて頂きました。長い間読んでくださり誠にありがとうございました。(Jay)

 2月からは、「シェフJayの、もう一度ニッポン〜 20年ぶりの日本の生活」をお届けする予定です。

 


Jay
シェフ、ホリスティック・ヘルス・コーチ。蕎麦、フレンチ、懐石、インド料理などの経験を活かし、「食と健康の未来」を追求しながら、「食と人との繋がり」を探し求める。オーガニック納豆、麹食品など健康食品も取り扱っている。セミナー、講演の依頼も受け付け中。
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メール:nattoya@gmail.com