トランプ大統領の最初の1年が終わろうとしていますが(本記事の初出は昨年12月19日)、最後にとんでもないことをやってくれました。エルサレムをイスラエルの首都と認めてしまったのです。もちろん、これにはアラブ諸国はもとより、世界中が反発しています。
いったい、なぜトランプは、このような世界から反発を招くようなことばかりやるのでしょうか? これでは、世界のリーダー、世界覇権国としてのアメリカの地位は低下する一方です。実際、この1年間で、アメリカは弱体化しています。このままでは好調な経済も行き詰まります。
「アメリカを再び偉大な国にする」と言い、「アメリカ第一主義」を唱えながら、トランプはその逆ばかりやっているのです。ここまでくると、トランプの言動にはなにか裏があるとしか思えません。このまま、日本(安倍政権)は、どこまでもトランプについていっていいのでしょうか?
「エルサレム首都宣言」に日本は沈黙
トランプ大統領が「アメリカはエルサレムをイスラエルの首都として承認する」と宣言して以来、日本政府は態度をあいまいにしたままだ。アラブ諸国が猛反発するのは当然としても、イギリス、フランス、ドイツなどの欧州諸国、ロシア、中国まで非難声明を出しているにもかかわらず、固く口を閉ざしている。
管官房長官も河野外相も「(中東情勢を)懸念している」とは言うものの、はっきりした態度を表明することを嫌っている。安倍首相にいたっては、記者からイスラエルに関する質問をされることすら嫌がった。
「日本はアメリカの属国だから、欧州諸国のような声明は出せない」とはいうものの、トランプ追随とアメリカ追随は違う。トランプがアメリカの中枢(国家意思)を代表しているわけではない。むしろ、最近のアメリカの中枢部は、トランプがアメリカの国益に相反することばかりやることを懸念し、本気でトランプを大統領の座から引きずり降ろそうとするようになっている。
ロシアゲートの捜査の進行、ティラーソン国務長官の更迭報道、セクハラ被害女性の記者会見などを見ていると、トランプはもう完全に見限られているのは確かだ。
となると、日本(安倍首相)がトランプ追随をやりすぎると、足元をすくわれるかもしれない。
世界に対して責任感ゼロのチーム・トランプ
もはや、世界中がはっきりとわかったのが、トランプ政権(チーム・トランプ)はバラバラで、まとまりがないということだろう。さらに、トランプ自身も言うことがクルクル変わるので、それに振り回されるとえらい目にあうということだ。
先月、ティラーソンはとんでもないことを言った。北朝鮮と無条件で対話すると言い出したのだ。「天気の話でもいいから、まず話し合いを持つべき」
これを聞いた日本政府の中枢にいるある人間は、思わず絶句した。なぜなら、これは北朝鮮の核を容認することと同義だからだ。もしこれがトランプも承認しているとしたら、日本の安全保障は根本から崩壊してしまう。
すでに更迭されるのがわかっているので、「じつは自分はどこまでも対話路線だった」と、ティラーソンは戦争になったときのためのアリバイづくりをしたのだろう。そう解釈するのが自然だ。
それにしても、トランプにしてもティラーソンにしても、世界と人類社会のあり方に関して、まったく責任感を持っていないことに驚く。こんなアメリカ政府は、これまで見たことがない。
トランプが登場するまで、世界は覇権国家アメリカのリーダーシップに関して、一目の信頼を置いていた。いくらトランプが「アメリカ・ファースト」と言っても、世界全体の秩序に関しては責任を持つだろうと思っていた。しかし、いまやその考えは完全に吹き飛んだ。
じつはイスラエルを窮地に追いやった
日本のメディアや識者は、エルサレムの首都承認に関して、トランプは公約を守った。そして、夫クシュナーのためにユダヤ教徒になった娘のイヴァンカと孫たちのために、「親ユダヤ路線」を明確にしたなどと分析している。
しかし、これはとんだ見当違いだ。今回のことで、かえってイスラエルを窮地に追いやってしまったからだ。
なぜなら、イスラエルにとっては、周辺のアラブ諸国が常に争っている状態のほうがいいからだ。サウジアラビアとイランが争い、シリアの内戦が続き、イスラム国(IS)が暴れている状態は、イスラエルの安全保障にとっては好ましい。ところが、今回のことで、全アラブが結束してイスラエルの敵となり、反米化してしまう。これは、最悪の状況だ。
トランプは、とことんバカか、そうでなければ、なんらかの理由でアラブの敵に回り、アメリカの中東における覇権を放棄しようとしているようにしか思えない。イスラエルとパレスチナの和平の仲介者として振る舞い、じつは裏で親イスラエルをやる。これがアメリカのこれまでの立ち位置だ。トランプはこれを破壊してしまった。
笑いが止まらないプーチン大統領
それにしても、昨年4月、シリアにトマホークを打ち込んで、習近平に得意がって見せたというのに、トランプはその後なにもやらなかった。
その結果、シリアではアサド政権が復活し、ロシアの支援のもとに内戦に勝利してしまった。イスラム国もイラクとイランによって壊滅させられた。この間、クシュナーはサウジでムハマンド皇太子をけしかけて権力を握らせ、イラン側についたカタールを制裁させ、イエメンを叩き、反イスラエル路線を捨てさせた。
しかし、エルサレム首都宣言までやるとなると、さすがのサウジも反米色を強めるしかなくなった。そうでないと、アラブ世界の信用を失ってしまうからだ。
トランプの露骨な親イスラエル路線で、笑いが止まらないのはロシアのプーチン大統領だ。11月11日、プーチンはシリアを電撃訪問し、イスラム国との戦いに勝利したと宣言、ロシア軍の撤収開始を命じた。そしてその足で、エジプト、トルコを歴訪し、中東でのロシアの影響力増大を誇示した。つまり、トランプのエルサレム首都宣言は、ロシアに対する利敵行為になっている。(つづく)
※この続きは1月8日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com