連載33 山田順の「週刊:未来地図」 「アメリカ第一主義」で弱体化するアメリカ(下) トランプはただのバカなのか? それとも操り人形か?

ロシアゲートは今後どうなるのか?

 「ロシアゲート」とは、2016年11月の大統領選でトランプ陣営がロシアの“協力”を得ていたという疑惑だ。2017年5月に捜査していたFBIのコミー長官(当時)が解任され、新たに任命されたモラー特別検察官が10月末にトランプ陣営の選挙対策本部長だったマナフォートらを起訴している(ただし、本筋とは関係ない資金洗浄疑惑)。
 そして、12月1日、政権発足前に駐米ロシア大使と会談していたマイケル・フリン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が偽証の事実を認め、ムラー検察官との司法取引に応じたので、疑惑解明が一気に進む可能性が出てきている。
 今後の焦点は、フリンにロシア側との接触を指示したのは誰なのか? トランプはフリンがFBIに偽証した事実を知っていたのか? の2点。もしトランプが偽証を知っていて、捜査に手心を加えるよう要求したとなれば、司法妨害が成立する。そうなれば、トランプは弾劾裁判にかけられる可能性がある。
つまり、フリンがなにを証言するか? そして、フリンの次に同じようにロシアと接触してきたクシュナーに捜査の手が及ぶのか?で、トランプの運命が決まるかもしれないのである。
 ロシアゲートはでっちあげだという話があるが、どうしても腑に落ちないのが、トランプのツイッターにプーチンがほとんど登場しないことだ。また、登場しても、トランプはなんら批判的なことを書き込まないことだ。トランプには、理想とか信条、イデオロギーというものがない。じつは、そういう人間がもっとも操りやすいのだと、情報戦争をやっているプロは言う。

はたして弾劾裁判にかけることは可能か?

 アメリカ合衆国憲法では、現職大統領は「反逆罪、収賄罪、その他の重大な犯罪または軽罪」で弾劾され、有罪判決で罷免さとれる規定されている。
 弾劾裁判は、下院議員の過半数の賛成によって開始され、上院議員の3分の2以上が賛成すれば、大統領の罷免が確定する。この場合、次の大統領には、副大統領、つまりマイク・ペンスが就任する。トランプより100倍ましだ。
 現在、連邦議会は、上下院とも与党・共和党が過半数を占めている。したがって、共和党から反トランプ議員が出なければトランプは弾劾されない。ただし、2018年の秋に中間選挙(下院は全員、上院は3分の1が改選)があるので、ここで民主党が大勝すれば、どうなるかはわからない。
 いずれにしても、トランプは2017年、世界を混乱させ、アメリカの世界覇権を後退させ続けてきた。その結果、中東でのアメリカのプレゼンスは薄れ、アジアにおいても拡張する中国、敵対する北朝鮮を抑えられなくなっている。こうしたアメリカ覇権の後退をロシアと中国が巧みについていくと、世界はますます混乱していくだろう。現在、好調なアメリカ経済も、今後、どうなるかはわからない。

第二次朝鮮戦争、トランプ弾劾は買い

 トランプは、ロシアゲートで追い詰められたら、北朝鮮攻撃をやるかもしれないという見方がある。
 そうなると、現在、絶好調のNYダウは暴落するとエコノミストたちは言う。また、トランプの弾劾裁判が現実化すれば、同じくNYダウは暴落すると言う。本当にそうなるだろうか?
 たしかに、NYダウのPER(株価収益率)は、現在、22倍を超えていて、明らかに買われ過ぎと言えるから、バブル崩壊を危惧する声がある。バブルなら、ちょっとしたきっかけで弾けかねない。
 12月13日、FRBは連邦公開市場委員会(FOMC)で、6カ月ぶりの利上げを決めた。利上げ幅は0.25%で、FFレートは1.25~1.5%になった。ただし、来年4回と見られていた追加利上げのシナリオは3回に、2019年は年2~3回との見通しになった。さらに、FOMCは、2018年の経済成長率の見通しを上方修正した。
 こういう点を見ると、トランプはとことんついていると言える。もちろん、このツキが来年も続くかどうかはわからない。ただし、第二次朝鮮戦争もトランプ弾劾も、もしそうなったら、NYダウも日本株もさらに買いだろう。なぜなら、強いアメリカが復活するからだ。私の見方は市場の見方とは逆で、トランプがこのまま放置されるほうが、よほど危ないと思っている。トランプが大統領でいるかぎり、バブル崩壊がいつ起こってもおかしくない。
(了)
 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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