もうすぐ、トランプ大統領誕生から1年になります。思えばあっという間でしたが、それにしてもこんなひどい大統領は史上初です。しかも、そのひどさはここにきてますます加速しています。世界中があきれています。
今月23日から、スイスで恒例の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)が開かれますが、トランプが「行く」と表明した途端、現地の署名サイトで署名が始まり、「来るな」という声が高まっています。おそらく、今年は、トランプ来訪を拒否する運動が世界中で広まるでしょう。
正直、トランプに関してはなにを書いても虚しいだけですが、そうも言っていられないので、最近の言行と、トランプを取り巻く世界情勢をまとめておくことにしました。
確信的「便所国家」発言のタチの悪さ
まずは、「またやった」ですまないのが、ハイチや中米、アフリカ諸国を指して使ったと報道された「便所国家」発言だろう。これは英語では「sithole countries」(シットホール・カントリーズ)で、この「sithole」という言葉を私はこれまで1回もこの耳で聞いたことがない。つまり、あまりに下品な言葉で、公共の場や報道などでは絶対使わない。あのNYタイムズも、そのまま活字にするのをためらったという。それを、トランプは1月11日、連邦議員らとの移民制度を協議する非公開会合で使ったのである。
トランプは根っからの差別主義者(racist)、白人至上主義者(white supremacist)だから、それを表明されてももう驚きはない。ただ、こんな言葉を大統領が使っていては、アメリカの子供たちはどうすればいいのだろうか?
当然だが、言われた側は激怒である。ハイチ政府はもとよりアフリカ連合54カ国も強く非難した。安倍首相がうまくおだてているから、日本は大丈夫と思ったら大間違いである。トランプはイエローに対しても差別意識と偏見を持っているので、いつそれが飛び出すかわからない。自分の国を「便所国家」と言われたとしたら、どうするか考えてみてほしい。
トランプは差別主義者であるが、突き詰めると、自分以外はみな「下」と見下す“オレさま主義者”である。自己愛過剰とも言える。自分しか愛していない。そして、本当にタチが悪いのが「嘘つき」ということだろう。
「便所国家」発言が報道されると、「この言葉は使っていない」とツイッターで否定し、民主党関係者のでっち上げと嘘ぶいた。しかし、ホワイトハウスのシャー報道官は発言を否定せず、民主党のディック・ダービン上院議員は発言があったとメディアの確認にはっきりと答えた。
大統領が差別主義者で嘘つきなら、普通の国なら辞任に追い込まれる。しかし、トランプの場合、もう慣れっこになってしまって、国民もメディアも感覚が麻痺してしまっている。だから、現状は本当に、アメリカ民主政治の危機である。
ただ、アメリカがすごいと思うのは、トランプを熱狂的に支持する人々が確実に存在していることだ。極右の差別主義者、ネオナチ団体、KKKは「トランプは真実を言っただけだ」と、絶賛しているのである。
「フェイクニュース大賞」と精神鑑定要求
トランプは自分を批判するメディアをすべて「偽ニュース」(fake news)呼ばわりしてきた。そして、今月7日、ツイッターに「もっとも腐敗し、偏見に満ちた主要メディアへの『フェイクニュース賞』は1月17日に贈呈される」と投稿した。当初、トランプはこれを1月8日に発表する予定としていたが、暴露本騒動が起こったので、延期したようだ。
おそらくはCNNやNYタイムズなどが受賞するのだろうが、どうなるか非常に興味がある(編集部注:本記事の初出は1月16日)。ただ、これを書いている時点ではわからないので残念だ。トランプが選ぶ「フェイクニュース賞」に対し、有名シェフたちが立ち上がり、受賞者を自身たちのレストランに招待し無料でランチをふるまうと公表した。また、トランプ反対グループは「もっとも不誠実で腐敗した政権賞」をトランプに贈る計画を発表した。
このように、アメリカ国民のほとんどは、トランプに対して、もはや大統領としての敬意など微塵もなくなっている。しかし、誰も真面目に大統領から引き摺り下ろそうとはしていない。共和党議員の多くも「このままでは秋の中間選挙は必ず敗ける」と思っているのに、なにもしようとしていない。おそらく、あまりにアホらしくて、する気力が失せているのだろう。
トランプは1月12日に、大統領恒例の健康診断を受け、担当のロニー・ジャクソン医師は、「極めて健康」との見方を公表した。しかし、身体は健康でも、頭の中が健康とは言い難い。そのため、アメリカ、カナダ、ドイツの著名な専門家ら70人以上が、精神鑑定を求める書簡をホワイトハウスに送った。彼らは「認知症の検査を実施すべき」と要求している。
たしかに、トランプは発言にまとまりがなく、一貫していない。ときどき、呂律が回っていない。そうした点を踏まえ、専門家たちは、古くからの友人の顔がわからない、同じ内容の発言を繰り返す、細かい動作をする能力が衰えている、読んだり聞いたり理解したりするのが困難、判断力や計画立案、問題解決、衝動抑制の能力が疑わしいといった所見を挙げている。
(つづく)
この続きは、1月22日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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