連載41 山田順の「週刊:未来地図」銀座から始まるアベノミクス・バブルの崩壊(下)

すでに海外勢が引き、訪日観光客も減る可能性が

 銀座の不動産に投資しているなかには、中国をはじめとする海外マネーも多い。しかし、もはや中国勢は引いているという。オリンピック前の2019年に売り抜ける計画でいたファンドも、売り急ぎ始めたという。
 そう見ると、「不二家ビル」はうまく売り抜けたと言えるだろう。また、「キラリトギンザ」もそうである。なぜなら、「キラリトギンザ」は、オリックス不動産と米大手ヘッジファンドのエリオットが共同で開発した施設で、これをオリックスは2015年9月時点で、アゼルバイジャンの政府系ファンド「The State Oil Fund of Azerbaijan」(SOFAZ)に約500億円で売却しているからだ。そして、SOFAZ は昨年4月から、ここを約600億円で売りに出している。SOFAZ はババをつかまされたと言えるだろう。
 このように見てくると、銀座を起点にした不動産バブルは今年中に弾けるのではないかと思えてくる。実際、「オリンピックまで持たない」という声を聞く。
 2017年上期の日本の不動産取引額は1兆8213億円で、対前年同期比で18.5%増加したが、J-REIT(不動産投資信託)による取得が減少するなかで、外資系法人による取引が活発だった。しかし、下期からは減っているという。
 銀座はこれまで、中国人観光客の恩恵をもっとも受けてきた。その中国人観光客の消費は、昨年あっという間に、「爆買い」「高級品買い」から「イベント消費」に変わってしまった。JTBによると、2018年の訪日客数は前年比12.3%増の3200万人(予測)となっているが、この数字が達成されるかどうかは終わってみなければわからない。なぜなら、今年6月15日に民泊法が施行されることにより、多くのインバウンドを吸収していた民泊が違法になってしまい、観光客数が減ることが予想されるからだ。

相続税対策の不動産投資も限界に

 銀座もそうだが、商業施設、高級マンション、タワーマンションなどには、日本人の富裕層マネーもどっと流れ込んでいる。それを示すのが、実需がないにもかかわらず、これまで貸家の着工戸数が増加してきたことだ。
 この原因は、2015年から始まった相続税の増税だ。それまで相続財産評価額から控除できる基礎控除額が従来の60%に減額された。これにより、節税対策として、不動産会社から金融機関まで、土地オーナーに対して相続税対策として(土地の相続財産評価額を減額できる)アパートや賃貸マンションの建設を提案し、結果として貸家の着工が増えたのである。
 銀座の不動産もそういう一面があり、賃料収入(利回り)には目をつぶっても、相続税の節税対策で購入している地方の富裕層がけっこういた。しかし、それもここまでバブルで価格が高騰すると、もう手が出せないと見られている。しかも、金融庁は金融機関向けにマーケットを顧みない貸家建設の横行に注意を喚起するようになっている。
 いずれにしても、銀座をはじめとする東京の不動産は、間違いなくバブルである。2017年の路線価は、全国平均でも0.4%上昇したが、実際に上昇したのは東京都を含め13都道府県のみ。2県が横ばいで、残りの32県はみな下落している。つまり、実需はないのだ。さらに、主要都市の最高路線価の推移を見ると、東京の上昇率だけが突出し、大阪や名古屋などではバブル期の半分以下の価格にとどまっている。
 こうなると、銀座を起点にバブルが弾ければ、全国的な不動産の下落が起こるのは必至ではないだろうか?

なぜ一般層は好景気の恩恵を受けられないのか?

 以上、日本の景気について、主に不動産の面から述べてきたが、不動産バブルが弾けるような事態になれば、アベノミクスは、量的緩和をいつまでもやり続けるほか手はなくなる。株もそうだが、やがて不動産まで日銀が買うことになるかもしれない(すでにJ-REITを買っている)。
 いずれにしても、いまのところ、このような話はたいした資産を持たない一般層には関係ないことである。ただし、現在の金融資本主義においては、株価や不動産が上昇している限りはいいが、いったん下落し始めると、その影響は一般層まで及んでしまう。一般層は、景気がいい恩恵は受けられないのに、景気が悪くなると大変な目にあうのだ。
 昨年11月、政府は、2012年12月に始まった景気拡大が高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて、戦後2番目の長さになったと発表した。そこで、これがもしあと1年、2019年1月まで続くとしたら、どうだろか?そうなると、戦後最長(2002年2月から73カ月間)の景気回復を抜くことになる。そうなると、政府はさらに大きく喧伝するだろう。アベノミクスは大成功だったと言い出すだろう。
 しかし、一般層、とくにサラリーマンはこの景気拡大をまったく実感できない。なぜならこの間、実質賃金が上がるどころか減ったからである。厚生労働省が発表した昨年10月の毎月勤労統計(確報値)によると、1人あたりの名目賃金にあたる現金給与総額(給料)は前年同月比0.2%増とほんのわずかだった。となると、昨年から物価はじわじわと上昇を始めたので、実質的に給料は目減りしている。
 非正規雇用者の賃金(時給)は、人手不足から上がったが、正社員の給料は上がらず、物価上昇と社会保険料の値上がり、消費税などの増税の影響を加味すると、私たちの暮らしは日ごとに悪化している。もしこのまま、インフレに突入したら、さらに暮らしは苦しくなるだろう。
(了)

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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