連載45 山田順の「週刊:未来地図」なぜ若者は海外に出ないのか?その本当の理由(上)出国税1000円でなにが起こるのか?

 最近、海外どこに行っても、日本の若者をほとんど見かけません。見かけるのはシルバー世代ばかりです。実際、各種統計によると、日本の若者の「海外離れ」は進んでいます。
 日本人出国者数はここ数年、全体ではほぼ横ばいなのに、若者だけは減っているのです。とくに若い男性の減り方はひどく、旅行代理店では「若い男性は商売にならない」と言うほどです。また、留学生の数も減っています。そんななか、来年から「出国税」の徴収が始まります。日本人であれ、訪日外国人観光客であれ、日本を出るたびに1000円を取られるのです。これを政府は「国際観光旅客税」(「観光促進税」とも)と呼んでいるのですから、信じられません。このままでは、若者はますます「引きこもり」になってしまいます。2回に分けて、この大問題をレポートします。

日本人も外国人も
1人につき1000円

 この国では、増税は議会でほとんど議論されずに決まってしまう(消費税だけは例外)。毎年暮れに与党内で「税制改正大綱」が決まり、それがそのままは閣議決定されて議会を通過するので、決まればすぐにでも実施される。「出国税」は、所得税の増税(年収850万円以上)、タバコ税の増税(1本当たり3円)と並んで、今回の増税のなかではもっとも評判が悪いものの1つだ。
 出国税というと、2年前に導入された海外移住する富裕層向けの税金(1億円以上の対象資産を所有等している場合、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税を課税)があるが、今回のものはそれとはまったく違う。日本を出るというだけで、必ず取られる税金だ。
 税額は1人につき1000円。出国が観光だろうと、ビジネスだろうと、留学だろうと、また、日本人だろうと外国人だろうと払わなければならない(航空機、船舶の乗組員は除外、また2歳未満の子供も除外)。政府はこれを「国際観光旅客税」(「観光促進税」とも)と呼び、「出入国手続きの円滑化や日本の魅力発信のための観光関連施策の財源とする」と言っているが、悪い冗談としか思えない。
 旅行業界はもとより、いまだに多くの国民が反発している。とくに、旅行業界は「せっかく伸びてきた訪日外国人観光客の増加に水を差すばかりか、今後、日本人の海外旅行離れが加速する」と猛反対している。しかし、決まった以上、後の祭りだ。

負担者と受益者の
関係が不明瞭

政府の皮算用によると、2016年の日本人と外国人を合わせた出国者数は約4000万人なので、この出国税により約400億円が国庫に入るという。これは観光庁の年間予算(2017年度)約210億円の倍近い。
 そのため、「特定財源」(使う目的が決まっている税金)に縛られず、「一般財源」(なににでも使える税金)にしてしまうのではないかという懸念の声が上がっている。また、特定財源としても、負担者と受益者の関係が不明瞭だという批判がある。
 たしかに、外国人観光客から見れば、日本から出国する際に取られるので、旅行費用がその分上がる。日本の観光インフラが整備されればそれなりの受益はあるだろうが、再度日本に来ない限り受益しようがない。
 日本を訪れる外国人観光客は年々増加し、2017年には2869万人と過去最高を記録している(日本政府観光局)。これを旅行業界は「インバウンド」と言っているが、このインバウンドに悪影響が出るのは間違いないだろう。
 今回の出国税と同様の税は、世界の多くの国が導入している。たとえば、韓国は「出国納付金」として1万ウォン、香港は「出国税」として120香港ドル、オーストラリアは「出国旅客税」60オーストラリアドルを徴収している。また「空港税」「空港利用税」「搭乗税」などと呼ばれ、国際線搭乗の際に徴収される税は、英国、フランス、ドイツ、イタリアなどの欧州各国はもとより、カナダ、アルゼンチン、メキシコなど世界中の国々にある。また、アメリカには、事実上の入国税である「ESTA」(電子渡航認証システム)があり、短期の観光やビジネスのためにビザなしで入国する際、14ドルを徴収している。4ドルはセキュリティ対策に、10ドルは観光振興に使うとする目的税である。

外国人からも
日本人からもボッタくる

 このような観点から見れば、日本の出国税は特殊ではないと思われるかもしれない。しかし、日本にはすでに十分に高い「空港税」(施設使用料、旅客保安サービス料)があるのだ。成田、羽田、関空など空港によって金額は違い、たとえば成田の国際線施設使用料(出発)は2570円、旅客保安サービス料は520円である。
 空港税を取ったうえ、さらに出国税を取る。これでは、外国人観光客をボッタくろうと考えているとしか思えない。もちろん、ボッタくるのは、インバウンドの外国人ばかりではない。むしろ、アウトバウンドの日本人のほうが影響が大きいと思われる。とくに、たとえ1000円とはいえ、できるだけ安く海外に行きたい若者ほど影響が大きいだろう。
 そうでなくとも、日本の若者の海外旅行数は激減している。ここ10年ほど、海外各地で日本の若者たちをほとんど見かけなくなったが、今後はもっと減る可能性がある。後述するが、減っているのは観光やビジネスばかりではない。留学生数も減っている。そのため、メディアや評論家は、「いまや、日本の若者は完全な“内向き志向”になった」と言い、これを「クルマ離れ」と同じように「海外離れ」と呼んでいる。
(つづく)

この続きは、2月12日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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