連載47 山田順の「週刊:未来地図」なぜ若者は海外に出ないのか?その本当の理由(下)出国税1000円でなにが起こるのか?

海外より地元、
ジモティとヤンキーの増殖

 世の中は、「国際化」「グローバル化」が叫ばれていたが、若者たちの関心を呼ばなかった。そんなことより、故郷に帰る「Jターン」「Iターン」のほうに価値があった。「Jターン」「Iターン」以前に、そもそも東京などの都市圏に来ないで地元だけで過ごす「ジモティ」が増えた。また、大都市圏の衛星都市や地方都市では、「ヤンキー」が増え続けた。彼らは東京にさえ来ないのだから、海外になど行くはずがない。
 JR東日本企画の『Move実態調査2017』というレポートによると、「1か月あたりの移動回数」は20代が37.3回で、70代の40.8回をも下回り、全年代中で最低を記録している。20代は高齢世代よりも外出に消極的で、単純計算では1日に1.2回しか移動していない。しかも驚くのは、「家にいるのが好き」「自分はどちらかと言えば“引きこもり”だと思う」「外出しないでいいならなるべく家にいたい」といった質問に対して「非常にそう思う」と答えた人の割合がもっとも多いのが、20代なのである。
 このような“内向き志向”“引きこもり”を助長させたのが、ネットの発展、スマホの普及、SNSとネット通販の進展だろう。いまや外に出なくてもなんでも手に入るし、仲間、友人とコミュニケーションすることも可能なのだ。

レストランで、英語で注文できるのが国際感覚?

 私の考えが化石化したとつくづく思ったことがある。それは10年ほど前、知り合いの大学教授に頼まれて、特別講師として学生に「マスコミ就活」について話したときのことだ。
 このとき、私はマスコミの就職試験に受かりたいなら、ともかく視野を広げるために1度は海外に出るべきだと、学生の前で偉そうに語った。マスコミが必要としているのは専門性ではない。それより、雑学が重要で、好奇心があることがいちばんだと言い、また、これからはグローバルな視点、国際感覚が求められるなどと、自分ながら歯が浮くようなことを言ったのだ。
 ところが、これに対してある学生が反論してきた。
 「なんでそんなに海外に出る必要があるんですか? 国際感覚がそんなに重要ですか? ボクたちの場合、海外に行ったって、短期の観光旅行か語学留学がせいぜいです。それで、向こうのレストランで、英語で注文できるのが、国際感覚なんですか? パリに行ってルーブル美術館でモナリザを見て、グローバルな視点が身につくんですか?」
 これには、私もまいった。反論のしようがなかった。

海外経験を
過大評価しすぎるマスコミ

 私は、就職試験の面接官を何年かやったことがある。それで思い出したのが、履歴書に海外留学経験を書いてくる学生が結構いることだ。そこで、なにをやったかを聞くと、多くは短期の語学留学で、留学と呼べるものではない。たとえば、夏休みに、向こうの家庭にホームステイして語学スクールに通っていたなどと言う。そうして、きまって、「異文化交流ができました」なんてアピールする。
 ホームステイした家庭の冷蔵庫を開けて、そのなかから自分の飲み物を取り出すことが異文化交流ではないのは、明白だ。ホームステイ先の家族と食事のときに簡単な会話をしたとしても、それが異文化交流になるわけがない。私は考えを改めて、質問してきた学生に、「それでも海外に行ってみたいとは思わないのか?」と聞いた。彼の答えは明白だった。
  「海外旅行や短期留学なんかで国際感覚など身につきません。それなのに、マスコミの方は海外経験を評価します。過大評価です。結局、海外旅行や短期留学は“遊び”だと思います。それならバイトしたお金をパソコンやスマホに使ったほうがいいと思います。グーグルはなんでも教えてくれます。世界中を旅することもできますよ。ただ、正直なところ、海外に行くのはお金がかかり、奨学金をもらっているのに、贅沢なんかできないんです」
(了)

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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