NY市場に端を発した株価暴落の1週間が過ぎましたが(編集部注:本コラムの初出は2月13日)、まだ、混乱は収まっていません。はたして今後どうなっていくのか、さまざまな観測が飛び交っています。
ただ言えることが1つだけあります。それは、株価も経済も、金融緩和によって水増しされてきたバブルであるということです。したがって、リーマンショック以来続いてきた金融緩和が終われば、やがて「この日」が来なければならなかったのです。永遠に続く好景気がないように、永遠に続く株高もあるわけがないのです。
しかし、こんな当たり前のことを、みな忘れていたのか、あるいは忘れようとしてきたわけです。今日は、株価がなぜ暴落したのか? 掘り下げて分析します。
「天井を打った」と判断したNY在住投資家
2月2日の金曜日に、NYダウが666ドル安の暴落を演じてすぐ、私が敬愛するNY在住の投資家H氏が、毎週くれるメールで次のように書いてきた。
「これから、日銀黒田仕手は正念場を迎えることになる。米株の下げに耐えきれるかどうかを試される。今までと違う! 米株の下げは今までの下げと全く本質的に違う。これまでに何度かあった大下げは全て調整のためで、上げ道中における押し目であった。先週の下げは、2009年からまるまる9年間上げ続けた上げ相場の終焉である。天井を打った! 買い気旺盛だから切り返しもあるが、もうこの間の高値を抜くことはできない。ビットコインしかり、永遠に上がり続ける相場などない」
そこで私はさっそく、自分のサイトに『いつかは来る「その日」、NYダウの666ドル安はまさに「その日」。調整ではない』という見出しでブログを書いた。H氏が言っているのだから間違いないと、確信したからだ。H氏は日本での先物相場を勝ち抜いて海外に移住した“最後の相場師”とも言える人物で、その相場観は間違いなかった。
しかし、この時点で、H氏のようにNYダウが天井を打ったとはっきり言い切る人間はほとんどいなかった。
大暴落で合理的な理由はすべて吹き飛ぶ
アメリカのメディアをチェックすると、多くのアナリストや専門家が、NYダウ暴落の原因について、次の3点を挙げていた。
(1)労働省が2日に発表した1月の雇用統計で賃金の伸び率が市場予想を上回ったので、FRBがそれを口実に利上げペースを上げるとの観測が高まった。
(2)債券市場で長期金利が上昇し、インフレへの警戒感が広がった。
(3)税制改革や連邦政府予算の上限引き上げ法案成立の先行き不透明感が強まった。
つまり、株価暴落は、アメリカ経済が好調なために長期金利が上昇したことを受けた一時的なもの。これに、インフレへの警戒感や先行き不透明感が加わっただけだから、むしろ健全な調整と言える。となれば、ここからまた上がっていくのは間違いない。今後も「適温相場」(Goldilocks:ゴルディロックス)は続いていくとうのである。日本のアナリスト、専門家はほとんどがアメリカの受け売りだから、同じようなことをオウムのように言っていた。
しかし、週明けの月曜日、NYダウは金曜日以上に大きく下げた。下げ幅は、1175.21ドルと1000ドルを超えた。まさに「大暴落」と言っていい記録的な下げだった。ただし、下落率は4.6%だから、過去の大暴落とは違うという声(『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙)もあった。しかし、それまで言われていた経済データに基づく合理的な説明が、すべて吹き飛んでしまったのは間違いなかった。この大暴落に、一部のアナリストは「通常の取引にフラッシュトレーディング(コンピューター売買)が拍車をかけた」と、その理由をコンピュータのせいにしてしまった。
「上がったものは必ず下がる」と言うほかない
NYダウが大暴落すれば、日経平均も大暴落する。
2月6日、NY市場を受けて東京市場では取引開始直後から売り注文が殺到、下げ幅1071円84銭(下落率4.7%)と、1000円以上の大暴落を記録した。そして2日を経た2月8日に、NYに2回目の暴落がやってきた。今度は1032.89ドル(4.1%)下げた。そして、翌日の東京は、705円10銭下げた。こうなると、株価が天井を突いたのは、誰の目にも明らかになった。
こうして迎えた先週末、私はアナリストや専門家がなにを言っているのか、再びチェックした。それでわかったのは、もう誰も経済指標などから合理的な解説ができなくなっていることだった。H氏が言うように、永遠に上がり続ける相場などない。上がったものは必ず下がるとしか説明しようがないからだ。
なんでもそうだが、上がっているときは、もっと上がるだろうと人は欲をかく。いちばん上がったときに売ればいいと思うからだ。しかし、その反面、もう売らないと危ないかもしれないと常に不安を抱えている。つまり、「適温相場」などと言いながら、全員が売るタイミングを待っていたのだ。そこに、雇用統計による賃金上昇だの、長期金利上昇によるインフレ懸念などがやって来た。理由はなんでもよかった。誰かがそれをキッカケに売り始めると、それがもう止まらなくなった。結局、それだけのこととしか言いようがない。
そうして、やっと誰もが認めるようになったのが、NYも東京も株価は上がり過ぎていたということだ。NYダウは、リーマンショック後9年2カ月も上げてきた。9年前の2008年の年間株価は約8800ドルだった。トランプが大統領に当選した2016年は1万9800ドルである。それが2万6000ドル台に乗っていた。
東京も、アベノミクスが始まる前の2012年は約1万395円だった。2016年は1万9114円である。それが2万4000円台にまで上昇していた。つまり、NYも東京も「売りどき」だったとしか言いようがない。もちろん、これは後だからわかることだ。
(つづく)
【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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