連載49 山田順の「週刊:未来地図」株価暴落後の世界 なぜNYダウ、日経平均は暴落したのか?(中)

楽観論が支配した
「2018年株価予想」

 ここで、昨年暮れの「2018年株価予測」を振り返ってみたい。つい1カ月前、日本のアナリストや専門家はほぼ全員、「2018年も景気拡大が続き、株価はまだ上がる」と言っていた。アメリカで蔓延した楽観論が日本の市場も支配していた。
 それに加え、政府は「現在の景気拡大は戦後2番目に長かった『いざなぎ景気』を超えました」と、アナウンスしていた。しかも、内閣府が12月8日に発表した2017年7~9月期のGDP(改定値)は、実質で年率プラス2.5%となっていた。
 そのため、年末にかけて出た雑誌には、「好景気」の文字が踊った。マネー誌『ダイヤモンド・ザイ2月号』(2017年12月21日発売)は「好調な企業業績で5月に2万5000円を突破し、秋には米利上げなどで調整も、年末に再び2万円後半に上昇!」という記事を掲載した。
 この「5月に2万5000円台、年末に2万円後半」という見方は、当時、ほとんどのアナリスト、専門家が言っていたことだった。

なんと4万円超えまで
言い出した専門家

 このような楽観的(=強気)な見方の極め付きは、『東洋経済オンライン』に掲載された対談記事「2018年、日経平均3万円到達は十分ありうる」で、3人の専門家、阿部修平氏(スパークス・グループ社長)、武者陵司氏(武者リサーチ代表)、松本大氏(マネックス証券社長)は、いずれも強気の予想談議で盛り上がっていた。
 以下、そのイントロ部分を引用してみたい。

 《松本:いきなり本題に入りますが、2018年、あるいはそれ以降、日経平均株価はズバリいくらまで上がるとお考えでしょうか。
 阿部:2020年の末ごろには4万円になっているでしょうね。もしくは、4万円を超えている可能性もあると思います。
 武者:私も2018年には3万円、2020年には4万円もあり得ると思います。4万円も通過点で、2030年から2035年ぐらいには10万円を超えていく可能性が高いと思っています。すでにそれくらいスケールが大きい相場が始まっていて、「今はその入り口に差しかかったところ」というのが、私の考え方です。》

 いま思えば、びっくり仰天ではないだろうか?
 さらに仰天するのが、12月29日付の『日本経済新聞』の「びっくり予想で読む2018年、なるかトリプル3万」 という記事である。「トリプル3万」がなにかと言うと、「日経平均3万円、ダウ工業株30種平均3万ドル、そして仮想通貨ビットコイン3万ドル」の3つで、これを合わせて「トリプル3万」ということだった。
 あくまで“びっくり予想”だが、このネタを提供したのは、みずほ総合研究所である。

ロイターのコラムニストの的確な指摘

 このように日米とも楽観論が支配するなか、NY株は単なるバブルであり、また、アメリカ経済の好調は見せかけに過ぎないと警告していた人間がいた。ロイターのコラムニストのジェイミー・マッギーバーである。
 これも後から思えばだが、ジェイミーの記事「薄氷の米経済、FRB利上げ慎重でも自滅のリスク」(『Even sticking to cautious rate path, Fed is onthin ice』11月22日配信)は、まさに的確に現状と未来を捉えていた。
 この記事の冒頭で、ジェイミーは読者に問いかける。アメリカは経済成長も企業収益も堅調で、失業率は数十年ぶりの低水準、インフレの心配もない。それならFRBがあと2、3回利上げしてもアメリカ経済も世界経済もびくともしないだろうか?と。
 答えは「ノー」とジェイミーは言う。
 なぜそうなのか?
 ジェイミーが挙げた原因は、高利回りとされる債券(ジャンク債)の利率が低下していることだった。ジャンク債は、世界全体では直近で5%を割り込み、欧州では2%割れに近くなっている。つまり欧州では、投資適格級に届かない社債の利回りが、アメリカ国債(フェデラル・ファンド)の利回りを下回っている。
 これは、極めて危険な兆候であり、株価を含めた世界の相場は行き着くところまで行ってしまったことを表していると言うのである。
 すでにアメリカの家計債務は、過去最大規模に膨れ上がっている。もう限界である。FRBは慎重に利上げを進めるというが、何度も利上げするまでもなく、このような状態は自ずと腰折れする。限界が来る。こうジェイミーは指摘していたのだ。
(つづく)

この続きは、2月21日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

 
 

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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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