椎間板ヘルニア(中)
ジョンJ. ベルモンテ John J. Belmonte D.C., P.C.
コートランドニューヨーク州立大学レクリエーションセラピー学位取得後、身体障害者セラピーに従事。1991年ニューヨークカイロプラクティック大学卒業。インターナショナル・アカデミー・オブ・クリニカル・アーキュパンクチャー修了。PGA(全米プロゴルフ協会)の医療チームメンバー。1995年、カイロプラクティッククリニック「E53 Chiropractic & Wellness Studio」を開業。
前回は腰痛や首の痛みの原因の1つとして最も多い椎間板ヘルニアの発生の仕組みと進行について学んだ。今回は、ベルモンテ・カイロプラクティック医が椎間板ヘルニアの患者に行う治療「コックス技術」について聞く。
Qコックス技術とはどういうものですか?
A英語の正式名称は「Cox® Technic Flexion-Distraction and Decompression 」です。Flexion-Distraction は屈曲伸延 、Decompression は減圧という意味です。ジェームス・コックス医師(Dr. James M. Cox)が米国政府の援助を受け、ナショナル・ユニバーシティー・オブ・ヘルスサイエンス(National University of Health Science)で開発した、減圧による椎骨矯正療法です。コックステーブルという専用の治療台を使います。50年に及ぶリサーチ、臨床研究、経験に基づいて発展を遂げ、現在、椎間板ヘルニアをはじめ各種の痛みの治療に目覚ましい効果を上げています。
米国ヘルスリソース&サービスアドミニストレーションの支援を受けた臨床治験によると、神経根障害の患者は屈曲伸延での治療法が非常に効果的だったこと、また、屈曲伸延の方がエクササイズより効果的であることが分かっています。さらに理学療法(フィジカルセラピー)よりカイロプラクティックの治療を受けた患者の方が1年後の通院が少ないとの結果も出ています。18人中13人の腰痛患者は、屈曲伸延での治療で効果があるとの報告もあります。カイロプラクターでも、コックス技術は技術認定医師の資格を得た者しか行えません。
Q減圧といいますと?
A椎間板は、椎骨を構成する1つひとつの椎骨の間にある軟骨です。椎間板は中心にある液体状の髄核と周りを囲む繊維輪からできています。 椎間板ヘルニアは、傷んだ繊維輪から髄核がはみ出ることで椎間板が変形したり、椎間板から髄核が突出したりすることです。突出部分が外部組織を圧迫し炎症が起きて痛みます。薬で痛みは取れてもダメージを受けた椎間板はそのままです。コックス技術は椎間板にかる圧力を減らすことで、変形した椎間板の高さを戻し、外に向かう髄核を椎間板の外壁からなるべく元の位置に引き戻す療法です。繊維輪の循環が改善し、髄核に再び栄養を取り込み、椎間板を健康な状態に保ちます。
以下、図で説明します。
(1)変形した椎間板の高さ(C)を上げると、椎間板の繊維輪と脊椎神経(B)の間にスペースができ循環が良くなり、繊維輪と脊椎神経の緊張(赤い部分)が取れる
(2)椎間板の髄核内(A)の圧力を下げる
(3)椎孔(脊髄神経の通り道)の大きさを最大28%まで広げる
(4)椎骨と椎骨をつなげている椎骨関節(D)を元の状態に戻し、椎間板と椎骨の正常な関係を再構築することで、スムーズな背骨の動きを復活させ痛みを取る
Q 屈曲伸延と減圧はどのように行うのですか?
A基本は「push, pull, pumping(押す、引く、吸い上げる)」のリズミカルな動きです。一番重要なのが手の動作とテーブルの操作を同時に行うことです。手で感覚を確認しながら圧力を加えます。椎間板は脊椎にかかる衝撃を緩和させる柔らかなスポンジのようなもので、スポンジはそのまま水の中に浮かせても水を吸いますが、一度スポンジを手でつぶしてから手を離せば、より多くの水を効果的に吸い上げます。その原理を応用するのです。椎間板に周辺組織から栄養分を含む液体を取り込ませることで、つぶれた形の椎間板の高さを戻し、内部で広がっていた髄核が引っ張られる力で内側に戻ります。
Qコックステーブルとはどのようなものですか?
A頭部、胸部、腰部、足の部分に分かれ、部分別に可動させることができます。患者はうつ伏せか横向きに横たわります。医師は足の部分のレバーと、患者の体に当てた手の両方を使って矯正を行います。ゆっくりと、リズミカルに行うので、痛みはありません。
Q牽引(けんいん)とは違うのですか?
A はい、違います。コックス技術はカイロプラクターの手技と同時に背骨・脊椎を曲げながら「伸延(flexion)」を行うものです。医師は常に患者の体に触れて確かめながら施術します。その組み合わせで減圧が起き、髄核が引き込まれます。牽引だけでは減圧の効果は表れません。よく告知されている「減圧効果」の宣伝は牽引だけです。牽引は関節の動きを作るためにあるものです。
Q進行したヘルニアでも効果があるのですか?
Aはい、全てのステージのヘルニアに対応します。髄核が繊維輪を破って椎間板から突び出してしまったら、元の位置に戻すことはできません。しかし飛び出した泡の部分が小さくなり、炎症を起こさないように落ち着く可能性はあります。痛みの原因は炎症ですから、ヘルニアが存在してもこの施術で椎間板の状態を改善して健康に保つことで、炎症を起こさない状態にすることは可能です。コックス技術では、状態への理解度、手技、テーブルの使い方など、経験でしか培えない技術が求められます。同時に長年の臨床と研究を経て確立された明確なプロトコル(手順)があり、それに沿って行う安全な治療です。
Qどんな手順ですか?
A「50%ルール」です。ヘルニアに限らず、コックス技術で治療を始め最初の4週間で痛みが50%軽減すれば、治療の回数を減らし、徐々に日常生活でのアクティビティーを増やします。椎間板ヘルニアの場合は椎間板が修復されるのに最低3カ月と考えます。しかしこの時期に痛みが50%軽減しない場合は別の理由を疑います。他の検査などを勧める場合もあります。これが50%ルールです。
人間の体はダメージを受けてから治癒までのプロセスがあります。その各段階で正しい処置を施すことが正しい治癒に結びつきます。次回はそれについてお話ししましょう。