連載52 山田順の「週刊:未来地図」オリンピックとナショナリズム (中) なぜ選手は国のために戦わねばならないのか?

各国のオリンピック報道は結局みな同じ

 自国民、自国を愛することは別に悪いことではない。それこそ、ナショナリズムはどこの国にもある。ナショナリズムが悪いのは、それが行き過ぎると視野狭窄になり、他者をかえりみなくなることだ。
 オリンピック報道を見ていると、まさにナショナリズムのオンパレードである。日本の場合は、日本選手の活躍だけを徹底的に報道している。こういうことを批判する声もあるが、そんなことは世界中どこでも同じだ。韓国なら韓国選手だけ、中国なら中国選手だけ、アメリカならアメリカ選手だけが、これでもかと報道されている。
 現在、オリンピックの放映権は米NBCが持っているが、アメリカにおけるNBCのオリンピック報道は、ほぼアメリカ選手の活躍だけに絞られている。羽生結弦と小平奈緒の金メダルなど、まるで報道されていない。フィギュアの決勝は、アメリカ東部時間の真夜中過ぎにあったのだから、アメリカ人は羽生の演技などほぼ見ていないのだ。NBCに限らず、アメリカのほかのチャンネルでも、出てくるのはアメリカ選手ばかりだ。今回もテレビを切り替えてアメリカの番組を見たが、これまでいちばん流れた映像は、スノーボード男子スロープスタイルで金メダルを獲ったレドモンド・ジェラード選手だった。

一家総勢18人で「USAコール」の大合唱

 一躍アメリカのヒーローになったジェラード選手は、17歳の高校生。スノボ金メダリスト最年少記録も更新したうえ、アメリカ選手としての冬季オリンピックの最年少金メダリストになったため、アメリカのテレビは大騒ぎになった。
 「マジ? ウソだろ!まるで夢のようだ」という彼のコメントが繰り返し流れ、ジェラード君が兄弟3人、妹が2人を持つビッグファミリーであること、そして2歳のとき兄の影響でスノボを始め、7歳でスノボに専念するためにオハイオからコロラドに移住したことなどが報道された。
 日本人が「ニッポンコール」をするように、アメリカ人は「USAコール」をするが、今回スノボ会場で、「USAコール」を思い切りしていたのはジェラード一家だった。なんと、ジェラード一家は、パパママをはじめ、総勢18人で会場に駆けつけて、「USAコール」を大合唱していたというのだ。
 しかし、日本ではスノボの男子スロープスタイルは、出場2選手とも予選落ちしたため、このようなことはまったく報道されなかった。
 アメリカのほうが日本よりはるかにナショナリズムが強いと思うことがある。それは、こうしたテレビ報道の向こう側に、アメリカ人の「アメリカは神の恩恵を受けた世界で唯一の国」という意識が垣間見えるからだ。
 アメリカの公立学校には、教室に必ず星条旗がある。そうして使徒たちは毎朝必ず、星条旗に向かって「Pledge of Allegiance」(忠誠の誓い)を唱える。日本の学校ではそんなことは考えられない。教室に日の丸もなければ、日の丸掲揚を拒否する教師までいる。
(つづく)

この続きは、2月27日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
 
 
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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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