連載55 山田順の「週刊:未来地図」 バブル崩壊、そして巨額流出‥‥ (前編・上) 仮想通貨ははたして未来の通貨になり得るのか?

 仮想通貨取引所「コインチェック」で起こった巨額資金の不正流出事件で、一般の仮想通貨への関心が高まっています。ビットコインの昨年暮れの暴騰と、今年になってからの暴落・・・・。仮想通貨は本当にこれから世界中で流通し、デジタル時代の主流通貨になるのでしょうか? それとも、単なる投機商品の1つとして終わってしまうのでしょうか? 今回は「通貨とはなにか?」という視点で、いまもっとも注目される問題を考えます。

仮想通貨は「暗号通貨」が本来の意味

 最初に述べておかなければならないのは、私が仮想通貨取引をしたこともないし、仮想通貨というデジタルテクノロジーに精通しているわけでもないということ。単にメディア業界の人間として、これまでの仮想通貨の動きをウォチングしてきたに過ぎないということだ。それでは語る資格などないではないか? と言われるかもしれない。しかし、それは違う。
 ここで、私が述べたいのは、金融システムとしての仮想通貨の未来に関してだからだ。投資という面、テクノロジーという面では語らないし、語れない。ただ、今後、仮想通貨がどうなっていくか? ということに関しては、一般の人々にとって非常に重要な問題なので、この機会に整理しておくべきだと思う。
 では、結論から言ってしまうが、仮想通貨は今後の世界を確実に変える。ただ、それは通貨として主流になるということではない。すべての貨幣がデジタル化するという意味である。いまさら、通貨がデジタル化するといっても、もう驚く人はいないだろう。
 すでに中国をはじめ、世界各国でキャッシュレス化が進んでいる。つまり、すでに貨幣はデジタル信号に変わってしまっているのである。となると、仮想通貨というのはいったいなんなのか? ということになる。
 そもそも仮想通貨などと言うから、よくわからない。「仮想」ということで本物ではないような感じを持ってしまう。しかし、実際には仮想というのは間違いだ。これは英語では「crypto currency」(クリプトカレンシー)なのだから、「暗号通貨」(クリプト=暗号)である。デジタル上で暗号化された情報を通貨としているということで、暗号通貨でなければならない。それを、なぜか仮想通貨と訳してしまった。しかしもう、これで広まってしまったのだから手遅れだ。

「コインチェック」事件の教訓とは?

 それではいま、いったいなにが起こっているのか?
 さる1月26日(編集部注:本記事の初出は1月30日)、日本の仮想通貨取引所大手のコインチェックが、突如深夜に記者会見をして、取引している仮想通貨の1つ「NEM(ネム)」が、約580億円分(5億2300万NEM)が外部からの不正アクセスで消失したと発表した。NEMは、仮想通貨としては時価総額で10番目に大きい通貨。それだけに、流出金額の大きさもあって、その後、大騒ぎになった。当然だが、NEMは暴落した。事件発覚前は1NEM=1ドルほどだったが0.7ドルまで下落した。しかし、その後、事件前の水準に戻った。
 仮想通貨はデジタル上の暗号だから、その安全性は確かなはずだった。ところが、コインチェックはNEMに関して外からアクセスできなくする安全対策を施していなかった。会見ではこのことを認め、翌日には顧客約26万人全員に、日本円で計463億円余りを返金すると発表した。ただし、それがどう行われるかは、この原稿を書いている時点ではわかっていない。事態に慌てた金融庁は、安全対策に不備があったとして業務改善命令を出した。
 以上が今回のコインチェック事件のあらましだが、ここから私たち一般の人間はなにを学べばいいのだろうか?
 すでに仮想通貨は流通しており、一般の通貨による投資も積極的に行われている。一般投資家のなかからは、昨年後半の暴騰で「仮想通貨長者」も誕生している。と思ったら、今年になってからの暴落で、全財産をすっ飛ばした「負け組」も大量に発生している。となると、「仮想通貨は危ない」という教訓を引き出せばいいのだろうか?
 私の結論はそうではない。それは後述するとして、ここで知っておくべきなのは、すでに仮想通貨の世界は成立しており、後戻りはできないということだ。
 仮想通貨は去年1年間で爆発的に増えた。そして、その市場規模は2018年1月8日時点で約9000億ドルに達した。これは、アップルの時価総額とほぼ同じであり、日本のGDP約5兆ドルの5分の1に相当する。(つづく)

この続きは、3月5日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 

 
 
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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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