連載57 山田順の「週刊:未来地図」 バブル崩壊、そして巨額流出 仮想通貨ははたして未来の通貨になり得るのか? (前編・下)

仮想通貨は国家の主権を奪ってしまう

 仮想通貨が登場し、こうしたことが広まるにつれ、投資は拡大した。デジタル技術により、金融が変わるのが明白になり、「フィンテック」の時代に入ったことも、仮想通貨への投資を拡大させた。
 そして最近では、大企業がこぞって仮想通貨ビジネスに参入している。NTT、楽天、リクルートなど名だたる企業が、ビットコイン関連企業への投資や業務提携を発表し、決済や支払いも広範囲にできるようになった。いまでは、仮想通貨での買い物も可能になっている。したがって、仮想通貨投資は、バブルだけとは言えないのである。
 ただし、なんと1400種類も登場してしまったオルトコインのすべてが、今後、順調に普及してくわけがない。また、仮想通貨の主役であるビットコインですら、今後、どうなっていくかはわからないのだ。なぜなら、仮想通貨には発行主体がないからである。そして、この点がもっとも重要なのだが、仮想通貨は国家主権を奪ってしまうのである。仮想通貨が広まった世界では、国が発行する「法定通貨」(legal currency:リーガルカレンシー)が駆逐されてしまう。そうなると、国家は立ちいかなくなる可能性がある。このことを理解するためには、そもそもおカネとはなにか?ということから見ていかなければならない。

ビットコインを公認した“お人好し政府”

 世界でいち早くビットコインを本当の貨幣と同じようにしたのが、ほかならない日本政府である。世界各国で個人取引での合法化が進んだことに刺激されたのか、2016年3月に内閣府で「貨幣認定」を決め、2017年4月に「仮想通貨法」(改正資金決済法)を施行した。
 しかし、これは「おバカすぎる」としか言いようがない措置だ。政府中枢に、仮想通貨がなにか理解している人間がいないのだろう。こんな“お人好し政府”は、世界でも珍しい。前記したように仮想通貨を貨幣認定することは、国家主権の放棄につながるからだ。
 次が、政府がビットコインを「貨幣認定」したときの『日本経済新聞』の記事である。

《ビットコイン、「貨幣」に認定 法規制案を閣議決定———政府は2016年3月4日、インターネット上の決済取引などで急速に市場が広がるビットコインといった仮想通貨に対する初めての法規制案を閣議決定した。「貨幣の機能」を持つと認め、オンライン決済などにも利用可能な公的な決済手段に利用できると位置づけた。取引所を登録制にして監督強化することも盛り込んでおり、利用に弾みがつきそうだ。》

経済学者もアメリカ政府も懐疑的

 この記事の結びが「利用に弾みがつきそうだ」と、あまりにおざなりなことが、メディアですら仮想通貨がわかっていないことを物語っている。
 仮想通貨法が施行されたため、仮想通貨による決済が法的に認められた。そして、それまではモノと同じと考えられていたために仮想通貨を購入すると消費税が課税されたが、それがなくなった。
 しかし、ノーベル賞経済学者のジョセフ・ステッグリッツ氏は「ビットコインは禁止されるべきであり、社会的に有用な機能を果たさない」と言っている。また、経済学者のロバート・シラー氏も「ビットコインの魅力は、システムを圧倒したい人たちを引きつけるミステリー映画に似た物語だ」と述べている。
 そして、アメリカ政府は、個人間の決済は認めているが、仮想通貨をいまだに本当の通貨としては認めていない。IRS(内国歳入庁)は、仮想通貨は資産だとしている。したがって、仮想通貨による支払い収入にはキャピタルゲイン税が課せられる。
 なぜ、名だたる経済学者が反対し、基軸通貨国のアメリカが認めていないのに、日本政府は先走るのか? 仮想通貨を貨幣と認めることがなぜ国家主権の放棄になるのだろうか?
(つづく)

 
 
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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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