連載58 山田順の「週刊:未来地図」 バブル崩壊、そして巨額流出 仮想通貨ははたして未来の通貨になり得るのか? (後編・上)

「おカネ」の存在理由はモノと交換できること

 日本政府はいち早く「仮想通貨」(crypto currency:クリプトカレンシー)を「貨幣認定」するという、とんでもない間違いを犯してしまった。
 この間違いで、ビットコイン・バブルがヒートアップしたが、それ以上の間違いは、これが国家主権の放棄につながる可能性があることだ。なぜ、そうなるのか? それは、そもそもおカネとはなにか? と考えれば理解できる。
 おカネは歴史的に見ると、「物々交換」の仲介手段として登場した。つまり、モノとモノを交換するとき、いちいちそれを持って行って交換するのは面倒なため、仲介になるものとしてのおカネができたのである。つまり、おカネの最大の存在理由は、それが食料や衣類などの生活物質と交換できるかどうかにある。
 したがって、仮想通貨の場合も、これができなければおカネになり得ない。現在、仮想通貨でも買い物が可能になり、また円やドルなどの「法定通貨」(legal currency:リーガルカレンシー)とも交換ができるので、事実上おカネになっている。

なぜ金銀が貨幣として使われたのか?

 では、なぜおカネはモノと交換できるのだろうか? それは、人々がそうできることを認めているからとしか言いようがない。つまり、そういう価値があると信じているからである。どう見ても、現代のおカネはただの印刷された紙切れに過ぎない。それなのに、交換でモノを手に入れられるのは、売り手がそれをおカネだと認識して受け取るからだ。
 これは、当初、おカネに金や銀などの貴金属が使われたことを見れば明らかだ。金や銀は希少であり、それゆえ誰もが欲しがると信じられたからだ。近代になって紙幣が登場しても、その価値は金(ゴールド)で裏付けるという、 「金本位制」が採用されたのもこのためだ。したがって、1971年にアメリカがニクソンショックによってドルと金の交換を停止するまで、紙幣というのは金の預り証または借用証だった。
 つまり、貨幣の本質とは、人々の信用に基づく交換性であり、仮想通貨もこの条件が満たされれば、貨幣として流通する。誰もがそれをおカネと信じて交換できればいいのだ。しかし、ここで大きな問題がある。

誰でもマイニングしてビットコインを得られる

 ビットコインは「マイニング」(mining:採掘)と呼ばれる方法で発行される。マイニングとは、誰でも参加できる仕組みで、オンライン上に「ブロックチェーン」(block chain)という取引台帳をつくっていく作業である。この作業は、膨大な計算処理を必要とするので、処理を成功させた人間には、その報酬としてビットコインが支払われる。つまり、通貨の新規発行はこの瞬間に起こる。誰かが通貨を発行したわけではない。
 このように、ビットコインとは、それがおカネとして流通すると信じている人々のマイニングによって支えられている。そういう人たちが世界中にいて、日々マイニングをやっていることで成り立っている。ただし、無限に発行されるわけではない。ビットコインの発行総量は、2140年までに2100万 Bitcoin と決められていて、それ以後の新規発行はないことになっている。
(つづく)

 
 
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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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