連載59 山田順の「週刊:未来地図」  バブル崩壊、そして巨額流出 (後編・中) 仮想通貨ははたして未来の通貨になり得るのか? 

仮想通貨と法定通貨の違いとはなにか?

 では、仮想通貨を国家が発行する法定通貨と比べてみよう。当たり前だが、円やドルなどの法定通貨は、日本政府やアメリカ政府が発行している。正確には政府ではなく中央銀行が発行しているが、これは政府が行う行為を代行しているだけで、「通貨発行権」は基本的に政府に帰属している。(ちなみに、中央銀行が政府から独立した存在とされているのは、基本的に政治家が信用できないからだと考えられる。彼らに通貨発行権を与えると、選挙目当てにカネをばらまきかねない。それでは金融政策が歪められるので、中央銀行が発行することにしたと考えていい。ただし、陰謀論では、たとえばFRBのようにユダヤの銀行家が権力を握るための制度ということになる)。
 おカネを国家が発行するということは、国家が人間社会における最高権力だからである。したがって、人々が法定通貨をおカネとして使うのは、自分が属している国の政府を信用するほかないからである。逆の言い方をすれば、国家権力の保証の下に、法定通貨はおカネたりえているということになる。
 それでは仮想通貨はどうだろうか? 前記したように、マイニングでつくられるので発行主体がない。ないにもかかわらず、流通できるのは、人々がそれをおカネと信じるからだ。そう信じる人が無限にいれば、仮想通貨は流通し、取引、決済、交換に使うことができる。

国家が持つ「通貨発行権」を奪い取る

 それでは、1つの国の中に、法定通貨とビットコインのような仮想通貨が同時に流通する状況を考えてみよう。どちらも、おカネだとされているなら、誰でも法定通貨より仮想通貨のほうを使うようになるだろう。
 なぜなら、仮想通貨は金融機関を介さずに直接決済ができるため、圧倒的に便利だからだ。しかも、手数料などはほぼかからない。買い物もできる。デジタルだから、紙幣のように保存が面倒だということもない。
 どうだろうか? すでに急速にキャッシュレス化が進んでいる以上、いずれ紙幣・コインというリアル通貨はなくなっていく。その流れからしても、デジタル通貨である仮想通貨は将来を約束されたようなものではないだろうか?
 となると、いずれ、仮想通貨は国家が持つ通貨発行権を奪い取ることになる。日本の場合で言えば、日銀はいらなくなってしまうのだ。しかし、これは重大な問題をはらんでいる。
 通貨発行権というのは、国家の主権を構成する重大な要素である。国家は通貨を発行することで、金融・財政、経済をコントロールし、さらに、その通貨で税金を納めさせることで成り立っているからだ。通貨発行権がいかに強大な権力かは、マイアー・アムシェル・ロスチャイルドがこう語ったと伝えられていることで明らかだろう。「われに通貨発行権を与えよ。さすれば法律など誰がつくろうとかまわない」
 金本位制がなくなった後、世界は「管理通貨制」に移行したが、これは通貨が国家の管理に入り、その信用は国家の経済活動のうえに成り立つことを意味している。つまり、経済活動が強い国の通貨ほど信用されて、広く使われる。これが、現在のところアメリカのドルが世界の「基軸通貨」(key currency:キーカレンシー)となっている理由だ。仮想通貨は、こうしたシステムを崩してしまいかねない。なにより、仮想通貨には国境がない。

金融緩和も納税も
ビットコインになる?

 いくら仮想通貨が流通しようと、政府の決済や納税が法定通貨である限り、仮想通貨が法定通貨にとって替わることはないという見方がある。しかし、普段は仮想通貨でだけ決済や取引をしていて、政府と決済するときと納税するときにだけ、それを法定通貨に替えればいいだけなので、この見方は成り立たない。
 また、政府が行う金融・財政政策にも大きな影響が出る。なぜなら、たとえば金融緩和を行うとしても、政府・日銀は円しか市場に供給できない。しかし、すでに市場ではビットコインのような仮想通貨が主流になっているので、円をビットコインに換えなければならない。
 はたしてこれがスムーズにできるだろうか? すでに金融機関はビットコイン取引が主流で円を欲しがらない。さらに、円とビットコインとの交換レートに大きく左右されることになる。
 こうなって、はたして金融・財政政策ができるだろうか?また、福祉政策を行うにも、円では難しくなる。たとえば、国民は年金を円で受け取ることを歓迎するだろうか? もはや、市場はビットコインが主流になっているのだ。この状況は、金本位制の紙幣と金の関係に似ている。政府は金を持っているからこそ、それを担保に保有量に見合った紙幣を発行できる。となると、ビットコインが価値の主流となり、民間の貨幣となった場合、ビットコインの保有量に見合った円しか発行できないことになる。
 現在はまだビットコインは、投資商品の1つに過ぎないが、もし本格的に市場で流通するようになれば、法定通貨との立場が逆転しかねない。国家は自国内で使用できる通貨を規制できる。日本の場合、いくら基軸通貨とはいえドルは使えない。コンビニに行き、ドルで支払おうとしても受け取ってもらえないので、モノは買えない。しかし、カンボジアのような国では、ドルが自国通貨のリエルと同じように流通し、モノの価格はドルとリエルの2重表示となっている。仮想通貨が流通する世界は、これと同じだ。

「暗号通貨が勝利する」というラガルトの衝撃発言

 仮想通貨によって、中央銀行システムを柱とする世界の金融・経済の仕組みが、いま大きく変わろうとしている。このことを端的に述べたのが、IMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルド氏だった。 
 彼女は、2017年9月末にロンドンで行われたイングランド銀行のフォーラムで、次のように述べた。
  「仮想通貨は、インターネットと同じくらい世界を大きく変えるだろう。それは、各国の中央銀行や従来の銀行業を別のものに置き換え、国家が独占している通貨システムに挑戦する可能性を切り開くものとなる」「仮想通貨をめぐるさまざまな混乱や懸念があるが、それも時間が経てば落ち着くはずだ。長期的には、技術そのものによって、国家通貨の在り方や従来の金融仲介業務が仮想通貨によって置き換えられ、今日のような“部分的な”銀行業務に疑問が投げかけられることになるだろう」
 これは「銀行業は終わりを迎え、仮想通貨が勝利する」発言として、その後、世界中を駆け巡った。そして、ゴールドマン・サックスは、10月になって、とうとう「ビットコインを使った取引に参入する」と表明し、12月には仮想通貨の値付けを行うトレーディングデスクを設置すると表明した。さらに、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙(2017年10月6日)は、「IMFのSDRがビットコイン化する日」という記事を掲載した。
(つづく)

 
 
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【山田順 】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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