連載62 山田順の「週刊:未来地図」「#MeToo(ミートゥー)」ムーブメント続く 世界中、本当に「セクハラ」だらけなのか?(中)

ハリウッドスキャンダルが次々炸裂

 それでは、これまで「#MeToo」の“血祭り”に上がった男たちを振り返ってみよう。
 発端となったハーヴィー・ワインスタインは、映画会社「ミラマックス」の創立者で、80年代末から90年代にかけて、「セックスと嘘とビデオテープ」「パルプ・フィクション」などのヒット作品を手がけ、「イングリッシュ・ペイシェント」で初のアカデミー作品賞を獲ってから、大物プロデューサーとして君臨してきた。2005年に「ザ・ワインスタイン・カンパニー」(TWC)を創設してからも、「アーティスト」「英国王のスピーチ」がアカデミー作品賞を受賞しているので、とんでもないハリウッドの帝王と言える。総資産は3億ドルとも言われ、ロバート・デ・ニーロと組んでレストランもやっていた。
 しかし、NYタイムズの記事後、「ぜんぶ合意だった」と言い訳してぶざまな姿を見せると、New Yorker誌で、セクハラだけでなくレイプもしていたと暴露され、命運尽きた。集団訴訟を起こされたうえ、さる2月26日には、彼の会社TWCが「チャプター11」(破産法)の申告をしていることが報じられた。
 ワインスタインに続いて、ケヴィン・スペイシーやベン・アフレック、ブレット・ラトナー、ダスティン・ホフマンら数多くの映画人たちが告発された。このうち、ケヴィン・スペイシー(58)のケースは、バイセクシュアルの彼らしく、なんと「スタートレック」に出演する俳優アンソニー・ラップからの「#MeToo」だった。アンソニー・ラップはBuzz feedで、子役をしていた14歳のとき、ケヴィン・スペイシーに性的暴行を受けたと告発したのだ。
 ケヴィン・スペイシーは「30年前なので覚えていない」としながらも謝ったが、主演していたNetflixの政治サスペンスドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」のシーズン6から降板させられ、事務所との契約も解消された。

セクハラを隠し続けてきたビル・オライリー

 ハリウッドと同じく血祭りに挙げられたのが、テレビ局の大物キャスターたちだ。
 すでに、「#MeToo」ムーブメントが始まる前、昨年の4月にFOX Newsの大物コメンテーター、ビル・オライリー(68)が解雇されていた。これは、セクハラ被害を訴えた女性たちに、FOXが計1300万ドルも支払っていたことが明らかになり、女性団体、スポンサーから抗議が殺到したからだった。
 1996年に放送が始まった「The O’Reilly Factor(ザ・オライリー・ファクター)」は、平日夜放送の60分の政治トークショーで、FOXの看板番組の1つ。保守の論客としてのオライリーは、ゲストの「spin(スピン)」(質問をはぐらかすこと)を許さないとことで人気だったが、自分はスピンして疑惑を否定した。
 しかし、解雇後、セクハラ行為で糾弾されるのは初めてのことではなく、これまでもお金(和解金)を渡して女性たちの口を封じてきたことが発覚してしまった。まったく、とんでもない男だが、そのたびに金を出してきたFOX(あのルパード・マードックがオーナー)もどうかしている。
 FOXでは、2016年に初代CEOのロジャー・エイルズ(76 、2017年5月死去)が、同局の女性アナウンサーのグレッチェン・カールソンにセクハラで訴えられて辞任している。まさに、セクハラ放送局と言っていい。ちなみに、ビル・オライリーもグレッチェン・カールソンもトランプの支持者だった。

CBSとNBCの看板キャスターも血祭りに

 このように、テレビ局もハリウッドと同じセクハラが横行していたから、「#MeToo」が始まれば、さらに告発が出るのは時間の問題だった。大物キャスターですぐに血祭りに上がったのが、CBSのチャーリー・ローズ(75)だった。11月20日付けのワシントンポスト紙が、ローズの下で働いていた3人の女性の実名告白と、5人の女性の匿名告白記事を掲載した。ローズは彼女たちへの「後ろからだっこ」、太ももや下腹部への「お触り」を繰り返していたといい、自宅で仕事をさせているときは、彼女たちの前を、シャワーを浴びて全裸で歩き回ったりしていた。
 ローズは、「CBS This Morning」の看板キャスターで、エミー賞を何度も受賞。2014年にはタイム誌の「最も影響力のある100人」にも選ばれていた。
 次の血祭り男は、前述したNBCの「Today」の看板キャスター、マット・ロウアー(59)。彼もまた、局の女性たちから告白された。女性たちは「下手に騒げば仕事を失う」と恐れ、お触りは序の口、大人のおもちゃプレゼント、性器露出などのセクハラに耐えてきたのだ。発覚後、NBCはロウアーを即解雇、ロウアーの妻は子供を連れて離婚。People誌は、ロウアー夫婦が仮面夫婦で、ロウアーは浮気を繰り返していたことを報じた。アメリカのテレビショーの男性キャスターは、みな、エラソーでカッコマン。とくに、このロウアーは上から目線オトコだったから、拍手喝采した視聴者も多かった。じつは、私もそうだ。
 こうしてテレビ局に火がつく中、NYタイムズ紙のホワイトハウス担当政治記者、グレン・スラッシュ(50)も、前職であるPoitico(ポリティコ)の記者時代のセクハラが発覚して停職処分を受けた。
 こうなると、メディア業界はすべて、セクハラのワンダーランドということになるだろう。   (つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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