連載63 山田順の「週刊:未来地図」「#MeToo(ミートゥー)」ムーブメント続く 世界中、本当に「セクハラ」だらけなのか?(下)

米体操界のセクハラは「禁錮175年」

 こうして「#MeToo」ムーブメントは燎原の火のように世界中に広がり、欧州でも欧州議会の80人以上の男女が匿名で、職務中に性的虐待や性差別を受けたという告発が出た。英国、ドイツ、そして、韓国などでも告発が行われ、日本ではブロガーで作家のはあちゅうさん(31)が電通社員時代に受けたセクハラ被害を名指しで告発したりした。
 ただ、日本では、これこそ「#MeToo」ではないかという、ジャーナリスト伊藤詩織さんの告発に「売名行為」との批判が多く寄せられ、結局、刑事事件としては不起訴となって、盛り上がり(こういう運動に使う表現ではないかもしれない)を見せなかった。
 しかし、アメリカでは、いまも最大の「#MeToo」ではないかとされる「体操界セクハラ告発」の余波が続いている。これは、1998年から2015年にかけて女子体操チームの医師をつとめていたラリー・ナッサー(54)という男が、なんと156人の原告からセクハラを訴えられるという前代未聞の訴訟だ。
 原告のなかの金メダリスト、アリー・ライズマン選手は、15歳から彼に“治療”と言われて、性器や胸をタッチされ続けたと訴えた。そうしたこともあり、1月24日、裁判所はナッサーに、なんと「禁錮175年」の判決を下した。
 この裁判で、米体操界は大揺れとなり、五輪の女子団体でコーチを務めたジョン・ゲダートの虐待疑惑も発覚、さらに別の告発も続いた。

忘れられているセクハラ対象外の女性の存在

 そんななか、注目を集めたのが、フランスを代表する大女優カトリーヌ・ドヌーヴ(74)が2月9日、著名な女性約100人とともにル・モンド紙に寄稿した声明。
 ドヌーヴらは、新たな「ピューリタニズム」(清教徒的な過剰な潔癖主義)の波が起きているとしたうえで、こう声明した。
 《ただ誰かの膝を触っただけ、あるいは誰かをキスしようとしただけで、多くの男性が問答無用に罰せられ、職を追われてきた》
 《強姦は犯罪だが、誰かを口説こうとするのは(たとえそれがしつこくても、あるいは不器用でも)犯罪ではない。そして、男性が紳士的にふるまうのは、決して男尊女卑な攻撃ではない》
 《私たちには、不器用に口説くこととレイプを混同しない聡明さがあるはずだ》
 もちろん、これは行き過ぎた風潮への警告だが、はたしてここまで男性を弁護していいものなのか? もちろん、大論争を引き起こし、いまだに決着してはいない。ただ、決着など永遠にしないテーマだ。

 ただし、この論争ですっぽり抜けていることがある。この世の中には、セクハラなどけっしてされない女性がいることだ。私のこの疑問を埋めてくれたのが、女性週刊誌女性セブン(2018年2月1日号)の記事に載った脚本家の橋田壽賀子さん(92)のコメントだった。
 橋田さんは「私がカトリーヌ・ドヌーヴさんを支持するのもおこがましい」と前置きしつつ、こう語っている。
 「男性に好意を持たれて仕事がもらえるなら、どれだけラクだったか。幸い、私は容姿に恵まれなかったから、そんなチャンスはありませんでした。“仕事をちらつかされて”というのは、結局は実力がないから。本当に力のある人なら、そんな関係はなくても仕事はやってきます。どうしても嫌だったら、言葉巧みに誘われても食事を断わるべきだし、部屋に行かなければいい」
 たしかにその通りではないか? この世界には、セクハラの対象にならない女性のほうが多いのだ。このことをみんな忘れてしまっている。
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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