連載64 山田順の「週刊:未来地図」「#MeToo(ミートゥー)」ムーブメント続く 世界中、本当に「セクハラ」だらけなのか?(完)

トランプに対して「#MeToo」は15人

 さてここで、こうしたこの「#MeToo」ムーブメントの最後のターゲット人物に行き着かねばならない。もちろん、トランプ、アメリカ合衆国第45代大統領だ。
 前記したNBCのキャスター、マット・ロウアーの解雇のとき、この大統領は「NBC、コムキャストのトップ役員たちが、多くのフェイクニュースを流し続けたことで解雇されるのは、いったいいつなのか?」と皮肉った。
 しかし、トランプはこれまでの各種メディアの報道によると、少なくとも15人の女性から告発を受けている。このうち13人は、トランプから直接襲われたと証言。残る2人はトランプの振る舞いをセクハラだとしている。そして、これらの女性たちのうち少なくとも6人は、トランプと一緒に写っている写真などを一定期間“交流”を持った証拠として提示している。
 昨年の12月11日、これらの女性のうちトランプを訴えている3人が記者会見を開き、状況を語った。その1人、レイチェル・クルックスさんは、2005年にトランプタワーでトランプに自己紹介した際に、強引に口にキスされたのだという。
 もちろん、トランプは、この3人に関して「会ったこともない。完全なフェイクだ」と、徹底的に否定した。

トランプには訴訟取り下げの“前科”が

 英ガーディアン紙の記事「Trump lawyers given court date over lawsuit alleging rape of 13-year-old」(2016年12月)などによると、トランプは2016年6月、ある女性からセクハラ告訴されたが、11月の大統領選挙の4日前に告訴は取り下げられたという。
 告訴の内容は、この女性が13歳だった1994年に、大富豪ジェフリー・エプスタインのマンハッタンの自宅で行われたパーティーに呼ばれ、トランプに「激しくレイプされた」というもの。トランプとエプスタインは、彼女は未成年だと周囲に警告されたにもかかわらず、さまざまな性的行為をさせたという目撃証言も書面で提出されたという。
 エプスタインは「pedophilia」(小児性愛者)として知られ、2008年には「underage sex crimes」(未成年売春罪)で有罪判決を受けている。
 ニューズウイーク日本版の「セクハラ・スキャンダルの大本命はトランプ」(2017年11月24日)という記事は、上記の話を紹介した後、次のようなことを書いている。
 《トランプの最初の妻イバナは離婚手続きの際に、89年に夫からレイプされたと訴えている。トランプの伝記によると、頭皮の手術後の痛みに苦しんでいたトランプは、イバナの髪をむしり取って強引に性行為をした。ただしトランプ側の要望で、「『レイプ』という言葉は使ったが文字どおりに、あるいは犯罪的な意味で解釈してほしくない」とイバナが書いた文書が伝記の冒頭に掲載された。》

「パパを信じる」と娘イバンカ

 つい先日、3月2日 、トランプの娘イバンカが、「#MeToo」ムーブメントについて初めて、テレビで語った。なんと、またもNBCである。
 まず、イバンカは、パパのトランプが少なくとも15人以上の女性からセクハラで訴えられていることに関して「真実だとは思わない」ときっぱり否定した。「私は父を信じています。父を知っています。私は娘として父を信じる権利があると思います」と言った。
 ただし、ムーブメントそのものに対しては、「信頼できる証拠と信頼できる話をあげ、立ち上がっている女性たちのことを誇りに思っています。そういう女性たちを私たちは近頃たくさん目にしています」と述べた。
 この世界には男と女しかいない。そして、男には、セクハラする男としない男がいて、女にはセクハラされる女とされない女がいるとしか言いようがない。しかし、セクハラする男と、セクハラされる女は、いずれも少数なはずだ。
 「女のイヤはイイのうち」などと男たちは言うが、そんなものは嘘だと自身の経験上から私は思う。なぜなら私は気が弱いので、「イヤ」と言われたとき、それ以上したことは1度もないからだ。
 だから私は、セクハラがまったく理解できない。
(了)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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