日本の薬剤師・薬学博士で、現在コロンビア大学で博士研究員をする樋口聖先生による「米国市販薬(OTC)講座」。胃腸薬や鎮痛剤など、毎回テーマを絞り、OTCの種類や、安全な選び方を教わる。先生自身まだ在米2年。米国のOTCには驚かされることもしばしばだという。「一緒にファーマシーを紙面探訪して、賢い消費者になりましょう!」
第8回「睡眠導入剤」
OTC睡眠導入剤は全て抗ヒスタミン剤です!
「春眠暁を覚えず」のことわざ通りなら、春はよく眠れるはずですが、実際にはそううまくいきません。そこで今回は、薬局で「スリープエイド」とうたわれる商品を探してみました。実にさまざまな商品名で売られていますが、その有効成分はみな同じで、抗ヒスタミン剤(アレルギー薬)だということ、ご存じでしたか?
医薬品としてのスリープエイド
①成分はみな同じ、抗ヒスタミン剤
「Unisom」「Sleepinal」など、さまざまな商品が「Wake Up Refreshed」「Safe Restful Sleep」などの宣伝文付きで棚に並んでいます。知っておいてほしいのは、これらは商品名こそ異なれど、有効成分は一様にジフェンヒドラミン(Diphenhydramine)であること。代表的なOTC抗ヒスタミン剤「ベナドリル(Benadryl)」の有効成分です。宣伝文を読んで迷う前に、箱裏の有効成分表示を確認しましょう。なんだ、みんな同じじゃないかと気付くはず。この成分は脳に作用するため、強烈な眠気に襲われます。OTCのスリープエイドは全て、この副作用を利用したもの。「Advil PM」など、鎮痛剤に「PM」が付いた商品も同様です。同じ薬ならアレルギー薬の方が安価かもしれませんね。
②あくまでも寝つきが悪い人向け
もう1つ知っておいてほしいのは、OTCのスリープエイドはあくまでも「睡眠導入剤」であること。寝付きの悪い人が眠りに落ちるのを助けるだけで、眠りを持続させることはできません。一度寝ても夜中2、3時に起きてしまう中途覚醒の人には効果がないのです。そういう人は主治医に相談し、必要に応じて処方せん睡眠薬を試す他ないでしょう。その場合は、必ず主治医の指示に従って安全に服用してください。ちなみにOTCスリープエイドの有効成分ジフェンヒドラミンは、依存性はないとされますが、多少の耐性はあると思います。最初は少量で効いていたものが、継続して服用するうちに増量しないと効かなくなる可能性も否定できません。
非医薬品としてのメラトニン
単剤からビタミン配合までいろいろ
不眠対策には、メラトニンのサプリメントもあります。非医薬品なので、「100% Drug Free」のように、薬ではないことを宣伝文にする商品もあります。メラトニンとは本来体が作るホルモンで、体内時計に働きかけることで覚醒と睡眠を切り替え、生体リズムを整えます。高齢になるほど眠れなくなる原因の1つに、加齢によるメラトニンの減少が挙げられます。睡眠リズムの改善などを目的に試してみるのもいいかもしれません。商品によってメラトニン含有量も異なれば、その他の成分もいろいろで、メラトニン単剤の商品もあれば、ビタミンB6やカルシウム配合の商品もあります。体内で徐々に薬がリリースされる構造の商品もあるので、試してみて、自分に合ったものを選びましょう。
※基礎疾患がある人は、市販薬であっても服用時に主治医または薬局の薬剤師に相談を。
知っておきたいファーマシー用語
OTC(Over The Counter)Drug
=一般用医薬品(俗にいう市販薬)。処方せんがなくても薬局で買える薬。
Active Ingredient=有効成分(薬効を示す物質)。薬の箱の裏に明記されている。
樋口聖 Sei Higuchi, Ph.D.
博士(薬学)、薬剤師(日本の免許)。城西大学大学院・薬学研究科修士課程修了、福岡大学大学院・薬学研究科博士課程修了後、京都大学医学部博士研究員。2015年からコロンビア大学博士研究員として、糖尿病の研究に従事。