日本の学校でのPTA役員選出や活動に関してのニュースを米国で目にすることがあるが、それを見るたび、米国の学校、特に公立学校でのPTAのあり方との違いを痛感する。日本の学校から米国の現地校に転入した家庭では日米双方を体験するため、その違いに戸惑うことも多いと聞く。また、日本人保護者が自分の記憶や体験で知るPTAと、自分の子どもが通学する米国の学校のPTAのあり方の違いに驚きや疑問を感じることも少なくないだろう。
今回は米国における一般的なPTA活動と学校への寄付について紹介する。
PTAとは?
PTAとは、全米で最大規模の非営利団体の1つとされるParent Teacher Associationの略称。各学校からお知らせがくるPTAは、同組織に加盟している場合と、加盟していない場合がある。この団体とは独立した活動をするParent Teacher Organization (PTO)と呼ばれる保護者組織もあり、こちらの呼称が一般的な地域も多い。
教師を含まず、保護者のみでの活動の場合はParent Association (PA)といわれ、高校から多くなる。米国の高校制度は日本の大学に近く、教師は各学科専任のスペシャリストという位置付けになり、学校全体の運営に関わる立場でなくなることも関係する。また、学校単位で独立して、その学校のみの運営組織として存在する保護者グループもある。
各学校、地域で名称や組織の形は変わっても、PTA活動の基本理念は、保護者と教師が協力し、自主的に学校教育と在校生の利益となる環境を整えることにある。そしてその活動を可能にするために必要な資金を得るための重要な仕事が寄付金集め、つまりファンドレイジングだ。ファンドレイジングは年間を通して行われ、その内容も多岐多彩だ。
日本と米国の相違点
明治時代に新しい学校制度ができてから日本でも「父母の会」などはあったが、現在のPTAの形態は戦後GHQが日本の教育の民主化を助けるために米国のPTAのあり方を当時の文部省に奨励し、日本政府がそれに応えるかたちで始まった(*米国の非営利団体PTAの理念を継承してはいるが、同組織とは無関係)。
このように政府主体で全国の保護者へPTA組織の設置を推奨した歴史的経緯が、今でもPTAへの義務感として残っているのかもしれない。一方、米国では当初からの保護者の自主的なボランティア活動という姿勢は変わらず、役員や係への持ち回りや、平等性を問われることはない。
日本では会費が発生し、「任意参加」か「強制参加」か、で問題になるようだが、米国では在学生の全保護者は自動的に PTAメンバーとなる。会費は存在せず、任意の寄付となる。自動的にメンバーになるため 、新しく公立学校に入学すると同時に、PTAから 「ようこそPTAへ」「PTAメンバーの皆さんへ」と書かれたレターと「寄付金のお願い」「ボランティアのお願い」が全保護者へ通達される。
活動内容と問題点
PTAは、家族イベントの開催、学校行事への資金援助やボランティア、子どものメンタルケア、進学、育児などに関わる保護者のためのワークショップ、学校と保護者の円滑な連絡を担うなどの教室外での活動に加え、教師、アシスタント教師、カウンセラーなどの人件費、冷暖房、講堂、校庭など学校設備の修理や機材購入、教材購入やサイエンスラボなどの特別施設の設置など、授業に直接関わり日本では公費で賄われるべき経費の資金調達を行う。公立教育は現在、連邦や州からの予算削減の直撃を受け、PTAの寄付なしには成立しないのが現状だ。
公立学校でありながら生徒の受ける教育と学校環境の充実度が、PTAの資金力に左右されることは歴然で、その格差は日本の比ではない。これは米国の公教育が抱える深刻な問題となっている。
ニューヨーク市のPTA
ニューヨーク市では、市教育局の規定で市内の全公立学校にPA/PTAの設置を義務付けている 。 PA/PTA活動は市教育局の規定に沿って行われ、PTA予算の用途の許可、市への会計報告、メンバー(つまり全校生徒の保護者)への連絡義務がある。PTAの会計報告はメンバーに必ず公開される。寄付の強制も禁止されている。
活動内容と問題点
PTAの財源は、各家庭からの寄付と資金調達イベントに頼っている。寄付は任意だが、生徒1人につき奨励金額が記されている場合が多い。この金額は学校により大きく差があり、一律25ドルという学校もあれば、1000ドルから1500ドルという学校もある。寄付金フォームに金額の選択肢が、25ドルから段階的に増え、最高額で1万ドルや5万ドルという数字が提示されて驚く保護者もいるだろう。
あくまで任意なので額面通りに支払う必要はない。全く寄付をしない家庭も存在するが、たとえ少額でも寄付に参加する意義は大きい。PTAが一番の目標に掲げるのは「100% participation」、つまり「保護者全員が寄付に参加する」こと。これは全校が一丸となって学校を大切に思っているという意思表明になる。「100% participation」が、対外的な資金集めや助成金の獲得に影響する場合もあるのだ。「例え10ドルであっても、ひと家族でも多く寄付活動に参加すれば、その金額で購入できる物の数倍の価値となって自分の子どもが通う学校に還ってくる」との考え方に賛同しない保護者はいないのではないだろうか。
(文・河原その子)