連載68 山田順の「週刊:未来地図」ついにマクマスターも「閣僚辞任ドミノ」辞任!(上)

 ティラーソン国務長官が解任されたと思ったら、今度はマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)まで解任される方向だと、米メディアは伝えている(編集部註:本記事の初出は3月20日)。
 これでいったい何人の閣僚が、トランプ政権から去っていったのだろうか? トランプが大統領になってから、まだ1年2カ月しか経っていない。この大統領は「アメリカ・ファースト」と言いながら、アメリカを長期的に確実に衰退させていくのは間違いない。

なんと得意のツイッターでティラーソン解任

 レックス・ティラーソン国務長官が解任されたことに関しては、それほど驚きではない。これまで、大統領との意見対立がたびたび顕在化していたし、「いずれ解任されるだろう」という報道もあったからだ。
 しかし、驚いたのは、ツイッターで解任が伝えられたことだ。まさに“ツイッター解任”、前代未聞である。
 トランプがツイッターに「マイク・ポンペオCIA長官が新しい国務長官になる。彼はファンタスティクな仕事をするだろう。ありがとうレックス・ティラーソンとその仕事よ!」と投稿したのは、3月13日の昼のこと。その3時間後に、トランプから電話がかかってきたとティラーソンは解任後の記者会見で語った。
 トランプもホワイトハウスの外で記者団に対して、解任は“相性”の問題、イラン合意などでの意見の対立だったと話した。
 しかし、本当の原因は、ティラーソンがトランプを「能なし」(moron)と呼んだ(昨年11月のNBC報道)ことをトランプが根に持ったことだろう。トランプは自分が指名したにもかかわらず、利口なティラーソンを次第に嫌うようになっていった。
 自分を「すごく安定した天才」(a very stable genius)と思っているトランプは、批判を許さないのだ。
 そのため、外交問題に関してじっくり取り組むティラーソンに、「時間の無駄だ」と公然とののしったことがあった。
 となると、ティラーソン解任は「遅すぎた」とも言っていい。ただし、ツイッター解任はないだろう。

マクマスター解任に見るトランプの皇帝気取り

 ティラーソン解任に続いて、ワシントン・ポスト紙(電子版)が3月15日に報じたハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の「トランプはいずれ彼を解任するだろう」報道は、トランプがいかに頑固で、人の意見に聞く耳を持たないかを表している。
 マクマスターは軍人だけに、上に対しては常に敬意を欠かさない。これまで、トランプ批判をしたことはなかった。それなのに、解任である。
 どうやらトランプは、マクマスターの率直な意見が気にいらなかったようだ。マクマスターは北朝鮮問題に関しては、「戦わない」ことを基本戦略としていた。軍人は戦争好きではなく、むしろその逆である。しかし、トランプは強硬策が好みで、マクマスターの後任に、「ネオコン」(Neo-conservative)のタカ派とされるジョン・ボルトン元国連大使の名前が挙がっていることが、それを物語っている(編集部註:22日トランプは“ツイッター”でボルトンが4月9日付で就任すると発表)。
 トランプがマクマスターを気に入らなかったことは、今年2月のミュンヘン安全保障会議のマクマスター演説に不満を表明したことで、一気に顕在化した。
 ロシア疑惑で常に批判されているトランプは、マクマスターに対して、「大統領選の結果がロシアによって影響を受けなかったと(彼は)言い忘れた」と、ツイッターで不満をぶちまけていた。
 この原稿を書いている時点で、まだマクマスターの後任人事はボルトンなどの名前が挙がっているだけで、まだなにも決まっていないと言える。ただ、今後については、ケリー大統領首席補佐官とマティス国防長官が調整していると、報道されている。
 しかし、先に解任されたティラーソン元国務長官は、マティス国防長官やムニューシン財務長官とは盟友と言われてきた。そのためこの3人は、誰か1人が辞任する場合はほかの2人も辞任することを誓う「スーサイド・パクト」(suicide pact:心中協定)と呼ばれる合意を結んでいるとも伝えられた。したがって、今後もさらに、閣僚の“辞任・解任ドミノ”が続く可能性がある。
 中国では、習近平が「終身皇帝」になることが決まったが、アメリカでもトランプが「皇帝」気取りでいることは確かだからだ。

「やってられない」と愛想を尽かして辞任

 ここまで見てきた限りでは、トランプのスタッフの辞め方には、大きく見て2通りある。
 1つは、トランプと「相性」(chemistry:ケミストリー)が合わないか、意見が対立して解任される(辞任でも事実上の解任がある)ケースだ。スィーブン・バノンも今回のティラーソンも、このケースである。
 もう1つは、1つ目のケースとそうは違わないが、「もう、こんなオッサンとは付き合っていられない」と愛想を尽かして、スタッフのほうから辞めていくケースだ。
 ティラーソン解任の前、3月6日に、辞任を表明したゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長は、まさにこの後者のケースである。コーン委員長はトランプ政権が導入した鉄鋼・アルミニウム輸入関税について最後まで反対していた。ゴールドマンサックスの幹部だった彼は、トランプの保護貿易政策が許せなかったのである。
 保護貿易が世界を崩壊させてしまうという確信の下に、彼は政権から離脱したわけだ。
 トランプに“愛想を尽かした”辞任は、ホワイトハウスの広報部長、報道官が、これまで何度も代わったことによく表れている。当初、この職には、マイク・タブキが就いたが、たった2カ月で辞任したために、ショーン・スパイサーが後任となった。彼は、共和党の全国広報部長を長年勤めてきた関係で、ホワイトハウス入りしていたので、まさに適任だった。
 ところが、トランプは2017年7月に、ヘッジファンド「スカイブリッジ・キャピタル」の創業者アンソニー・スカラムチを新広報部長に任命したので、スパイサーは激怒して辞任した。このとき、首席補佐官ラインス・プリーバス(後に辞任)もまた、スカラムチの起用に「激しく反対」した。以後、トランプ政権の広報担当者は、何度も入れ替わることになったのである。
(つづく)

 
 
column1

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com