連載69 山田順の「週刊:未来地図」ついにマクマスターも「閣僚辞任ドミノ」辞任!(中)

インテリほどトランプの代弁、擁護はできない

 スパイサーがスカラムチに反対して辞任したため、トランプは、混乱を収めようと、自分が指名したスカラムチをわずか10日で解任した。そして、その後は、ホワイトハウスの広報は報道官のサラ・ハッカビーがやることになった。そして、2017年9月に、ホープ・ヒックスが、トランプにより新広報部長に任命された。しかし、このヒックスもこの2月で辞任している。ちなみに、ハッカビーもヒックスも若い女性である。ハッカビー35歳、ヒックス29歳だ。
 サラ・ハッカビー報道官は、いまも報道官を続け、ホワイトハウスの記者会見では鋭い視線で記者を指名しているので、見慣れている人も多いだろう。失礼だが、太めの女性で、元アーカンソー知事のマーク・ハッカビーの令嬢だ。
 このような出自と、SAT(大学能力評価試験)のレンジが1030-1270点という「ワチタバプテスト大学」(Ouachita Baptist University)の卒業生でなかったら、ここまでトランプの代弁をする報道官という役を続けられたかどうかは、わからない。
 ちなみに、ショーン・スパイサーは、アナポリス(Annapolis:海軍兵学校)で、国家安全保障・戦略論で修士号(MA)を取得したインテリである。また、スカラムチはタフツ大学で学士号(BA)を取り、ハーバードのロースクールで法務博士号(JD)を取ったインテリだ。
 インテリにとって、トランプの言ったことを代弁し、それを擁護することは、かなり難しいと言うほかない。なんで、そんなことをしなければならないのかと、常に疑問に思ってしまうからだ。

美人広報部長ヒックスはなぜ辞めたのか?

 ホープ・ヒックスの辞任が発表されたのは、この2月28日だった。まだ29歳と若く、美貌の元モデルというこの広報部長は、トランプがもっともかわいがってきた女性として有名だったから、その辞任には、さまざまな憶測が乱れ飛んだ。
 辞任発表の前日、彼女は下院の情報特別委員会のヒアリングで、「私は大統領のために、いくつかの“白い嘘”(white lie:人を傷つけない害のない嘘)をつきました」と証言している。
 この委員会はトランプのロシア疑惑の追及のためのもので、彼女はロシア関係者との会合に出席していたため、証言を求められたのである。ただ、彼女は刑事訴追を受けるとして証言を拒否し、偽証罪にならないように、「嘘をついたことはあるか?」という質問に、こう答えたのだった。
 そして、「どんな白い嘘か?」と聞かれ、「居留守など」と答えたのだ。
 ホープ・ヒックスは、コネティカット州グリニッチの出身で、姉と共に美人姉妹として子どものころから有名で、エレメンタリー6年生のとき、近所の住民が姉妹をラルフ・ローレンのモデルコンテストに勧誘したというエピソードが残っている。この後、姉妹はブルーミングデールズの広告に起用された。こうしてモデルをしながら、サザンメソジスト大学(SATのレンジ1300-1600点)ではラクロス選手として活躍した。卒業後は、親のコネでNYのPR会社ヒルツィック・ストラテジーズに入り、その後、トランプ・オーガナイゼーションに転職した。
 そして、2015年初め、トランプに呼び出され、自身の予備選挙に参加するよう命じられた。こうした経緯をヒックスの母カエは、ニューヨーク・タイムズ紙の取材にこう答えている。
 「トランプは娘を座らせ、『これが君の新しい仕事だ』と言ったそうです」
 こうしてヒックスは、トランプ個人のスタッフとなり、毎日トランプのそばにいて、プライベートジェットに乗せられ、新居もあてがわれた。選挙期間中、トランプタワー内のオフィスの壁に掲げられたポスターには、トランプが「ホーピー(ヒックスのニックネーム)! 君がベストだ!」と、自ら書いていた。
 そんな彼女が、なぜ広報部長を辞めたのか?
 最有力説は、ロブ・ポーター秘書官が辞めたので、“恋人同士”だったから、いっしょに辞めたというもの。彼女は、ポーターとの「仲」を暴かれていた。ただ、このポーターの辞任は、元妻2人から暴力行為で訴えられたことによるものだった。
 となると、やはり、「もうこんなオッサンの広報などしていられない」と、職を投げ出した可能性もある。いずれにしても、トランプの側近たちは、とんでもない人間たちばかりと言うしかない。

1カ月に1人は辞めているトランプスタッフ

 それでは、ここで、トランプ政権の1年2カ月で、辞任・解任された主なスタッフを振り返ってみよう。以下、列記してみるが、この多さには驚く。平均すると、1カ月に1人は辞めている。
【2017年】
1月30日:サリー・イエイツ司法長官代理が解任
2月13日:マイケル・フリン大統領補佐官が辞任。理由はロシア疑惑とされた→後任にはマクマスター元陸軍中将
5月9日:ジェームズ・コミーFBI長官解任。ロシア疑惑捜査へのトランプの妨害工作という疑惑→8月になり、クリストファー・レイが後任の長官に就任
7月21日:ショーン・スパイサー大統領報道官・兼広報部長代行が辞任→広報部長にアンソニー・スカラムチ就任
7月27日:プリーバス首席補佐官が辞任。政権の内部情報をリークしたとされた→ケリー国土安全保障長官が後任に
7月31日:アンソニー・スカラムチ広報部長が就任10日で辞任→9月に後任としてホープ・ヒックスが就任
8月18日:スティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問が辞任。大統領との意見相反で事実上解任
9月29日:プライス厚生長官が辞任。プライベートジェットを公費で使い40万ドルの損害、事実上解任
【2018年】
1月29日、アンドリュー・マケイブ副長官が辞任。事実上の解任
2月28日:ホープ・ヒックス広報部長が辞任
3月6日:ゲーリー・コーン大統領補佐官兼国家経済会議議長が辞任。輸入関税に反対して辞意を表明→後任はラリー・クドロー(経済評論家、CNBCのコメンター)
3月13日:レックス・ティラーソン国務長官が解任→後任にはマイク・ポンペオCIA長官。CIA長官には副長官のジーナ・ハスペル
3月15日:メディアが、トランプがマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任する方針と報道(編集部註:トランプは22日、マクマスターを解任、後任はジョン・ボルトン元国連大使)
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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