日本は「ニコニコしながらごまかし続けている」
さて、こうなってくると、すでに始まってしまった「米中対決時代」を、日本はどう受け止め、私たち日本人はどう生きていくべきか考えなければならない。そう考えると、本当に虚しいのが、トランプが日本のことを偏見でしか見ていないことだ。
なにしろ、この大統領は、鉄鋼・アルミ関税で日本を除外しなかったのである。カナダ、ブラジル、メキシコ、EU、オーストラリア、アルゼンチン、韓国の7カ国及び地域は除外したのに、「安全保障上の措置から一部の国を除外する」と言ったにもかかわらず、日本は中国と同じ対象国にしたのだ。
このことに、日本政府と日本のメディアは本当に衝撃を受けた。首相が真っ先にトランプタワーにお祝いにかけつけ、フロリダの別荘でもゴルフのお相手をしたというのに、トランプは日本を同邦とは認めなかったからだ。
報道によると、関税発動の前日、トランプは安倍首相の名前を出しながら「各国(の首脳)はアメリカをうまく利用してきた」と、ほくそ笑んだという。トランプはこう言った。
《And I will say, the people we’re negotiating with – smilingly, they really agree with us. I really believe they cannot believe they’ve gotten away with this for so long.》
(もう1つ言ってやろうか。われわれの交渉相手はいつもニコニコしながらわれわれと合意する。しかし、ずっとごまかし続けられると信じているとしたら間違いだ)
《I’ll talk to Prime Minister Abe of Japan and others – great guy, friend of mine – and there will be a little smile on their face. And the smile is,“I can’t believe we’ve been able to take advantage of the United States for so long.” So those days are over.》
(日本の安倍首相そのほかの人たちに言ってやろう−まあ、彼はグレートでオレの友人だがね。彼らはいつもほほ笑みを浮かべている。そのほほ笑みは「こんなに長くアメリカを出し抜けると思ってなかった」っていう笑みだね。でも、もうそんな日々は終わりだ)
「米中対決時代」は日本にとって歓迎すべき
まったく、トランプは、なんという“ゴーマンジジイ”だろうか。この発言を聞いて、80年代からの日米構造協議の歴史を知る私の知人は激怒した。「日本が中国と同じ制裁を受ける。そんなバカなことがあっていいのか」と彼は言った。私も同感だ。しかし、ここは、トランプというトンデモ大統領が一刻も早くいなくなることを祈るしかない。
そうして、アメリカが対中強硬策を明白にしたことだけは、歓迎しなければならない。
アメリカが中国に対して友好的だったとき、日本はなにもいいことがなかった。中国の開放政策によって安い労働力を使えたことはよかったが、気がついてみると、日本の生産技術のほとんどが奪われてしまっていた。そして、何度も「反日政策」が繰り返され、日本企業は中国投資で結果的にマイナスしか得られなかった。
地政学から考えても、日本は中国がアメリカと並ぶ2強となる世界は受け入れられない。そんなことになったら、日本は股割きにあい、道に迷った迷子国家になってしまうだろう。両大国の顔色をうかかがって生きられるほど、私たちは器用ではない。
トランプの保護主義は長期的にはアメリカを衰退させる。しかし、この保護主義が中国一国に向けてのもので、中国封じ込め政策であるなら、その選択は正しいと言える。ここで、中国にアメリカの覇権に挑戦することを断念させなければ、自由世界は崩壊しかねないからだ。
そう考えれば、現状ではアメリカについていくしかない日本にとって、米中対決時代は歓迎すべきものだ。ただ、一刻も早く鉄鋼・アルミ関税は除外してもらわなければならない。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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