健康被害の相談、苦情が多数発生
実際のところ、2015年に「機能性表示食品制度」が始まってから、健康食品をめぐる健康被害のトラブルが続々報告されるようになった。
たとえば、「プエラリア・ミリフィカ」という植物を原料として豊胸効果をうたったサプリメントでは、不調を訴える相談が相次いだ。
また、もっともポピュラーな「青汁」も、いろいろなメーカーから発売されているが、そのなかの1つでトクホマークがついている粉末青汁を飲んだところ、寒気や頭痛の症状が出たという苦情も、消費者庁に寄せられた。
日本通信販売協会の調べによると、健康食品のメーカーが取り扱う成分は「青汁」と「コラーゲン」がもっとも多く、それに「グルコサミン」が続いている。しかし、こうした人気成分の多くは、その効果の根拠が疑問視されている。
医者が患者から健康食品の相談を受けたときによく参照するという「ナチュラル・メディシン・データベース(NMCD)」(日本版は同文書院から発売)によると、「ほとんどの成分の有効性のデータは不十分である」となっている。とくに、グルコサミンが関節の痛みを軽減するかどうかはデータ不十分とされている。同じくコラーゲンや黒酢などもデータ不十分とされている。水素水にいたっては、ほぼなんの効果もないのが判明している。
健康食品による“健康被害”の増大を受けて、厚生労働省は、今年になってやっと、被害情報を把握した事業者に国への報告を義務づける食品衛生法改正案(罰則つき)を国会に提出した。現在、この改正案は審議中となっている。
これは15年ぶりの改正で、健康食品は今後、間違いなく規制強化されていくだろう。
「フードファディズム」の蔓延
それにしてもなぜ、私たちは「これは健康にいい」「これは健康に悪い」というだけで、根拠もないのにすぐ信じてしまうのだろうか? とくに、女性にこの傾向が強い。
私の家内もこの傾向が強く、テレビで「○○にいい」と聞いただけで、その食品ばかり買おうとする。それで、私が「やめたほうがいい」と言うと、喧嘩になることがある。
「フードファディズム」(food faddism)という言葉がある。これは、特定の食べものや栄養が健康と病気に影響を与えることを過大に信じることを言う。
フードファディズムは、ほとんどがメディアによってつくり出される。たとえそれが、科学的に立証されていなくとも、テレビや雑誌などで、有名人が「私が健康なのは、〇〇のおかげ」と言うだけで、そのまま信じてしまう人は多い。かつて、テレビのワイドショーで紹介されただけで、スーパーから特定の食品が消えてしまったことがあるが、これがフードファディズムの典型例だ。
“コラーゲン信仰”も一種の フードファディズムである。これは、コラーゲンが「肌にいい」「血液をサラサラにする」「足腰の痛みによい」などということから、コラーゲンが多く含まれる食品(豚足、鶏の皮、手羽先、軟骨、牛スジなど)からコラーゲンと表示されている健康食品、サプリなどを徹底して摂取することだ。実際、“美肌”と聞いて、コラーゲンばかり摂取している若い女性は多い。
しかし、コラーゲンは食事から摂取しても、消化の過程で分解され、血中に入るときにはアミノ酸になってしまう。つまり、経口摂取しても体内のコラーゲンの量は変わらないので、無意味なのである。ただし、近年、研究が進み、コラーゲンペプチド(低分子コラーゲン)を摂取することで、体内でのコラーゲン増加に効果があるとされるようになった。
そのため、コラーゲンペプチドという表示が健康食品でよくされるようになったが、消化吸収がスムーズになっただけで、コラーゲンペプチドもまたアミノ酸に分解されてしまう。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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