第九回:芋焼酎「一尚 ブロンズ」とスペインの「マンチェゴ」
鹿児島空港から約40分車を走らせると川内川の流れるそば、自然とおいしい水に恵まれたさつま町に小牧蒸留所はあります。
のどかな景色の中、突如として目に飛び込んでくるヨーロッパ近世の倉庫を思わせる端正な石造りの貯蔵庫は他の焼酎蔵とは全く別の印象を与えます。2009年に創業100年を迎え、その2年後に新社長、小牧一徳氏に代変わりし、一昨年にはその弟である尚徳氏が製造責任者である杜氏に就任(現在では先祖代々受け継がれる名跡「小牧伊勢吉」を襲名)。それをきっかけに新たな小牧時代の始まりの象徴として、著名スタイリスト大久保篤志氏が手がけるThe Stylist Japanにより社長含む従業員制服を、同蔵創業でもある1900年代初期イギリス産業革命をモチーフに一新。焼酎造りへのこだわりだけでなく、蔵としてのブランディングにも力を入れ、進み始めたばかりの注目の芋焼酎蔵です。今回紹介する「一尚 ブロンズ」はその兄弟の名前を一文字ずつ取り「一尚 シルバー」と共に、創業100周年の2009年に発売されたもの。特にこのブロンズは焼酎初、ビール酵母を使用し造られたもの。ビール酵母は繊細で高温に弱く、通常の仕込みの温度では死滅してしまうため、冷却する工程を何度も繰り返しながらもろみを超低温管理し、日々丁寧に造られています。そのお味は芋焼酎とは思えないほど軽やかで爽やかながら酵母からくるほのかな苦味を含み、焼酎の新時代の幕開けを実感するに相応しい逸品です。ソーダ割にするとさらに酵母香が引き立ち、1杯目からビール要らずで乾杯できそうなほど。
そんな新時代の焼酎「一尚 ブロンズ」に今宵合わせたのはスペインの最も代表的なセミハードタイプのチーズ、「マンチェゴ」です。発祥地であるラ・マンチャ地方からその名がつきました。熟成の期間は実にさまざまで5日ほどのものから1年以上のものまで幅広く、若いものはフレスコ、3カ月程度まではクラード、それより長いものはビエーホと呼ばれています。見た目の特徴としては、20センチメートル程の円筒型で外側には成形時に付く茶から黒色の網目状の模様があります。羊乳という原料から、くせが強そう、臭みがありそう、と印象を持たれがちですが、熟成の長いものでもくせや香りはさほど強くなく、程良い塩気を感じることができ、意外にもさっぱりとしています。爽やかな「一尚 ブロンズ」ソーダ割との相性は言うまでもなく、これからの季節にもってこいのこのペアリングです。
一口メモ
ニューヨークで小牧醸造(株)から「一尚 ブロンズ」の販売許可を得ているのは現在、当店を含む2店のみ。ご来店の際には、ぜひマンチェゴチーズと共にご賞味ください。
大竹彩子
東京都出身。2006年、米国留学のため1年間ミネソタ州に滞在。07年にニューヨークに移り、焼酎バー八ちゃんに勤務。13年10月に自身の店「焼酎&タパス 彩」をオープン。焼酎利酒師の資格をもつ。焼酎&タパス 彩
247 E 50th St (bet 2nd & 3rd Ave)
212-715-0770 www.aya-nyc.com