選択肢はたった1つ「予防戦争」しかない
ただし、もう1人のタカ派で国務長官に就任予定のポンペオは、4月12日、長官就任承認のための上院でのヒアリングで、ちょっと耳を疑うことを述べた(編集部註:本記事の初出は17日)。ポンペオは、陸軍勤務の経験から「戦争の恐ろしさを認識している」として「外交的解決の追求」を強調し、北朝鮮については「体制転換を求めていない」と述べたのである。
この発言に驚いた英BBCは、「マイク・ポンペオ国務長官候補は戦争タカ派を否定」(Mike Pompeo : Secretary of state nominee denies he is a war hawk)と報道した。
しかし、これは表面的なことで、ポンペオ自身は、「(米朝首脳会談では非核化などを巡る)包括的な合意に至ると考えるのは現実的ではない」と述べ、さらに、北朝鮮が不可逆的な非核化の措置を講じる前に、“見返り”を与えることはないと強調した。
ようするに、金正恩に対して、非核化を曖昧なままにしたら許さないということである。
いずれにせよ、ボルトンにせよポンペオにせよ、アメリカの安全保障のためには、「先制攻撃」(preemptive attack)による「予防戦争」(preventive war)は必要だと考えている。予防戦争とは、敵が有利な状況を獲得する前に戦争を予防するために先制して攻撃することをいう。
予防戦争に関しては、アメリカの保守派の外交専門誌ナショナル・インタレストの電子版が、昨年12月に「選択肢は予防戦争しかない」というレポートを発表している。
このレポートの著者のケビン・ジェームスは、北朝鮮への対応は「核抑止」と「予防戦争」の2択以外にないとしている。核抑止というのは、北朝鮮とアメリカが互いに核兵器を持つことで戦争を回避する(いわゆる「相互抑止」)というもの。しかし、これはアメリカにとって容認できるものではないから、予防戦争のみが、「今後より強力になる北朝鮮による偶発的核戦争のリスクを除去することができる唯一の方法」としている。
このレポートは、戦争のリスクを数値的に表している。たとえば、直近で北朝鮮を攻撃して戦争が始まった場合の死者は約140万人だが、開戦を回避しても、いずれ「偶発的核戦争」が起こった場合の死者は5.5倍の約770万人に膨れ上がるとしている。
また、このまま放置すれば、北朝鮮の核兵器は年に4発ずつ増え、戦争となった場合の日韓の被害も甚大となる。数年後になれば、北朝鮮はアメリカ本土に到達する250キロトンの核弾頭を搭載するICBMを持つようになり、2020年の戦争では360万人、2048年の戦争では3420万人が(日米韓で)死亡すると指摘している。
大統領権限だけでいつでも戦争ができる
どうだろうか? このように見てくると、トランプの「思慮なしイエス」が、かえって戦争のリスクを高めてしまったと言えるかもしれない。
そこで、世界最大の民主主義国家アメリカが、大統領の勝手な判断で、たとえ予防戦争とはいえ、戦争を始めていいのかということを最後に考察して終わりたい。
アメリカは議会の承認がなければ戦争ができない。そう思っている人は多いと思う。第2次大戦にしても、ルーズベルトは対独戦に一刻も早く参戦したかったが、国民と議会の反対でできなかった。そのため、日本が真珠湾を攻撃して、参戦の名目が立ったことに大いに感激した(いわゆる「裏口参戦」)。英首相チャーチルは、「これで助かった」と快哉を叫んだ。
こうしたことを思うと、大統領が命じただけでは戦争はできないと思われるかもしれない。実際、合衆国憲法では、「開戦の権限は下院にある」と明記されている。
しかし、現実はそうではない。第2次大戦以降、アメリカが行ったすべての戦争、軍事介入は、議会に諮られずに、大統領権限で始められている。これに対して、議会のほうからクレームがついたことはほとんどない。トランプは、つい最近、4月14日に、化学兵器を使ったとしてシリア攻撃に踏み切っている。
朝鮮戦争にしても、北の南への侵攻に対し、トルーマン大統領は議会に諮らずに応戦を命じている。ただし、当時の北朝鮮軍は共産ゲリラ扱いで、国家対国家の戦争とは認定されず、単なる内乱鎮圧、警察行動だった。したがって、トランプが戦争に踏み切ったとしても、論理的にはなんの問題もないのである。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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