連載88 山田順の「週刊:未来地図」どうなる米朝会談(3)(中)アメリカと世界が陥った戦争と平和のジレンマ

「楽観」より「懐疑」。歴史は繰り返す

 こうした経緯を総合すると、いちばん舞い上がっているのが、韓国ムーンで次がトランプということになる。そして、ロケットマンのキムは、裏でほくそ笑んでいるに違いない。日本は、こうした流れから大きく遅れて、“蚊帳の外”(out of the loop)ということになる。いま、この“蚊帳の外”の状況を批判する向きがあるが、まだ結果はなにも出ていないのだから、結論を急いではいけない。
 歴史の教訓から言えば、楽観主義は禁物である。言葉より行動によってのみ歴史は動く。まだ、北朝鮮はなにも行動していないのだ。たしかに、昨年までのようなミサイルの発射も核実験も行っていないが、それだけである。
 外交においては「楽観」(optimism)より断然「懐疑」(skepticism)が重要である。報道においても同じだ。疑ってかかり、その疑いを相手が行動で晴らしてきたときに、初めてトランプが言うところの「ディール」が成立する。
 今回の「板門店宣言」を検証してみると、ほとんどの部分が2000年と2007年の2度あった南北会談後の宣言と変わらない。2007年の南北会談は、北朝鮮の核問題に関する「6カ国協議」の進展に伴って行われたが、その後、北朝鮮はアメリカが要求した「CVID」(Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement:完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)を拒否して核開発を続けたため、元の木阿弥になった。
 当時といまでは登場人物が違うが、半島情勢は変わらない。いや、さらに問題は深刻化し、北朝鮮は核保有国になってしまっている。
 したがって、トランプが交渉のボトムラインをどこに置くかにもよるが、非核化が少しでも懐疑的なら、残る手段は軍事オプション(戦争)しかなくなる。いわゆる「予防戦争」(preventive war)を仕掛けて、北の核を破壊することになる。
 予防戦争とは、敵が優勢になる前に先制攻撃して、将来の禍根を取り除くこと。個別的自衛権の先制的行使として、国際法上、ある程度認められると考えられている。

現代の戦争は「限定戦争」か「制限戦争」

 そこで、現代における戦争をもっと突っ込んで考えてみると、次の戦争の3分類が、考えるうえで役立つだろう。これは戦争を目的別に分けたものだ。
《戦争の3分類》
(1)全面戦争(All-out War):相手国の政権を否定する戦争で、どちらかの政権が倒れるまで戦う
(2)限定戦争(Limited War):相手国の政権を倒すことを目的としない戦争で、政治の延長として行う
(3)制限戦争(Controlled War):相手国の譲歩を引き出すためだけに行う、かなり制限された戦争
 一般的に(この言葉が適切であるかはわからないが)、現代の戦争は(1)か(2)である。つまり、相手国の政権を倒さない、体制転覆を目的としない戦争である。なぜなら、核兵器ができてしまった以上、核保有国同士が全面戦争を選択すると、お互いに破滅してしまうからだ。(1)の全面戦争があったのは、第2次世界大戦までである。
 日本はアメリカの圧力に根負けし、アメリカとの交渉の延長として限定戦争を選択した。しかし、アメリカは全面戦争を選択し、大日本帝国を崩壊させるまで戦火を収めなかった。アメリカが停戦に応じる意思がないと悟った日本は、死に物狂いで戦って、原爆を落とされるまで目を覚まさなかった。ナチスドイツも同じである。ソ連のスターリンの戦争も同じである。
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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