連載90 山田順の「週刊:未来地図」どうなる米朝会談(3)(完)アメリカと世界が陥った戦争と平和のジレンマ

ソマリアの悲劇によりルワンダは見捨てられた

 1994年にルワンダで起こった大虐殺は、わずか100日間で推定80万人が殺害されたというのに、どこも介入しなかった。ルワンダ虐殺の死亡率は、第2次世界大戦中にナチスドイツによって行われたホロコーストのじつに3倍に上るとされたが、アメリカをはじめ安保理国は無視した。
 なぜ、ルワンダは見捨てられたのか?
 アメリカは、1989年に冷戦が終結してからの数年間は、世界各地で起こった紛争に、人道を大義名分として積極的に介入していた。しかし、ソマリア内戦で、派遣した兵士たちが殺害されると、以後、介入をやめてしまった。
 映画「ブラック・ホーク・ダウン」を見た人は、アメリカ兵の遺体が街中を引きずり回されるという残虐なシーンを覚えていると思う。
 あれは実際にあったことで、アメリカの世論はいっせいに政府に訴えかけた。「なぜ私たちの国の将来ある青年たちが、アフリカの野蛮な人間たちに命を奪われなければならないのか」
 この声に、ワシントンは軍を引く以外の選択肢はなくなった。以後、アメリカは人道介入に消極的になり、ルワンダは見捨てられたのである。

なぜ北朝鮮の人道無視を問題にしないのか

 しかし、いくら自分たちと関係ない国、あるいは遠い国とはいえ、罪なき人々が紛争に巻き込まれ、次々と殺害されていくのを、見過ごしていいのだろうか?
 武力を行使する以外、その事態を防げないとしたら、その能力がある国は黙って見ていていいのだろうか? もし、それでいいというなら、この世界は、かつての国同士の戦争が頻発した弱肉強食の世界(=ジャングル)に戻ってしまわないだろうか。
ここまで長々と戦争について述べてきたが、それにはわけがある。今回の北朝鮮問題では、「核」ばかりが問題にされ、「人道」がほとんど無視されているからだ。
 北朝鮮は、国民を奴隷にした人道無視国家である。これまで、金王朝によって何万人もの罪なき人々が収容所送りにされ、拷問にかけられ、虐殺されてきた。
 そんな国が核を放棄しただけで、国際社会に復帰し、しかも経済援助まで受けられていいのだろうか?
 まさか、トランプは「CVID」の口約束だけで、ロケットマンと和解してしまうのではないだろうか。実際のところ、アメリカのCIAや軍は、北朝鮮がいったい何発の核弾頭を持っているかを知り得ていない。よって、自ら乗り込んで、徹底的に調べる以外に検証は困難である。つまり、ロケットマンが核を隠してしまえば、それを探し出すことなどほぼ不可能である。

真の平和には正義の存在が必要

 そう考えると、今回の米朝会談は恐ろしい結果を招きかねない。もし、ロケットマンの策略とトランプの功名心が一致してしまえばどうなるか? 2人が握手することで、朝鮮半島の「エセ非核化」が決まり、朝鮮戦争の終結による「見せかけ平和」が訪れる。
 ノーベル平和賞が、ブラックジョークではすまなくなる。
 国際法があっても、それを守らない国が1国でもあれば、その有効性は無に帰してしまう。しかも、法(ルール)だから、解釈次第のところがある。したがって、戦争はなくならない。
 ウィンストン・チャーチルは、こう言っている。
 「面白いから軍備を続ける者はいない。恐ろしいから軍備を続けるのだ」
 そして、キング牧師は、こう言っている。
 「真の平和とは、単に緊張がないだけではなく、そこに正義が存在することである」
(了)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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