トランプ大統領がいつまで持つのかは別にして、もうトランプ以後のことを考えていたほうがいいと思うようになった。まさかの大逆転で今秋の中間選挙も乗り切り、再選されるなんてことが起こるとはとても思えないからだ。
では、トランプの次のアメリカ大統領は誰になるのだろうか? それは、かなりの確率で女性といえる状況になっている。2020年の選挙で、アメリカ初の女性大統領に誰がなるのか? その候補者を2回に分けて、いち早く見ていきたいと思う。
重要法案は否決され弾劾に弾みがつく
「米朝会談を成功させてノーベル平和賞受賞」となるのなら、トランプの大逆転があるかもしれない。しかし、それも可能性はごくわずかだ。支持率40%程度が続くなら、11月6日の「中間選挙」(midterm election)は乗り切れないないだろう。
実際、共和党は、絶対的な地盤とされてきた3月のペンシルベニア州下院補選で敗れ、4月のアリゾナ州下院補選では勝ったとはいえわずか5ポイント差だった。この危機に、共和党の選挙アナリストはトランプに、「状況は絶望的」と警告したが、トランプは「そんなことはない」と強がったと伝えられている。
中間選挙では、下院の全435議席、上院の100議席のうち35議席(同時実施の2補選を含む)が争われる。現在、共和党の下院の議席数は237で過半数を19議席上回っているが、中間選挙はどちらかに大きく振れるケースが多く、このままトランプ不支持が続けば民主党が逆転するのは間違いない。また上院は51議席で共和党がかろうじてマジョリティを維持しているが、こちらも過半数割れは必至だ。となると、トランプが得意な“首切り人事”は、上院で民主党の賛成が得られなくなるうえ、重要法案も否決されることになり、政権は身動きがとれなくなる。
さらに、下院で民主党がマジョリティとなった場合、ロシア疑惑に絡んだ大統領の「弾劾」(impeachment)に弾みがつくことになり、トランプが大統領でなくなる可能性が強まる。
未来だから断言はできない。しかし、たとえ中間選挙を乗り切ったとしても、トランプが2期目をやると予想するアナリストはほぼいない。そればかりか、気が早い向きは、トランプ以後を見据えて、すでにいろいろと動き出している。民主党への献金が、日毎に増えているとも伝えられている。
「オプラ2020」女性大統領待望論
では、トランプ以後、誰がアメリカ大統領になるのだろうか? いち早く名前が挙がった候補から次々に消えていくことから見て、ここで下馬評を書くのは早急かとも思う。しかし、1つだけ確実に言えるのは、もういくらなんでも女性が大統領になるべきだというムードが、アメリカ国内で日増しに高まっていることだ。
なぜ、女性の権利に関して世界をリードしてきた国で、これまで女性大統領が誕生しなかったのか。しかも、前回の選挙では、あれほど期待されたヒラリー・クリントン候補が敗れている。まだ「ガラスの天井」(glass ceiling)は残っていたのだ。
それを思うと、次回こそは女性大統領というムードになって当然ではなかろうか。
昨年秋から続いてきた「#MeToo」ムーブメントも、こうしたムードを助長させている。その結果、1月のゴールデングローブ賞受賞式でのスピーチをきっかけに、オプラ・ウィンフリー(Oprah Gail Winfrey、63歳)の大統領選立候補への待望論が沸き起こった。「オプラ2020」というフレーズがSNSで全米に拡散された。
しかし、彼女は「60 Minutes(CBSテレビ)」で、立候補をきっぱりと否定した。たくさんの人間から要請されたことを明かしたが、「自分が政治家向きの人間と考えたことはない」として断ったと言ったのだ。
「自分が決断するべきときに周りの意見に頼ったことなど1度もありません。もし神が、私に立候補してほしいならば、神が私に伝えるものでしょう? でもそのお告げはなかった。私は、この国において、正義と寛容、そして善良な意思を伝えていく影響のある人物だという責任があると感じてきた。それでも、私が政治家になるべきだとは感じたことはないし、いまでもそれは同じです」
では、オプラ待望論に対し、トランプはなんと言っただろうか? トランプは、「私は彼女の弱点を知っている」と述べたうえ、「(もし立候補するなら)彼女はもっとも与しやすい相手だ。選挙は彼女にとってもっともつらい体験になるだろう」と、またしても強がったのである。
初の女性大統領候補を描く映画が製作中
オプラ待望論は、本人が否定したことで立ち消えとなった。そして、それに拍車をかけたのが、2月に封切られた彼女の出演映画「A Wrinkle In Time」(邦題:五次元世界のぼうけん)が大コケになったことだ。
この映画の原作は、1962年に出版されて大ベストセラーになったマデレイン・レングルのSFファンタジー。監督は「グローリー/明日への行進」のエイヴァ・デュヴァーネイ、脚本に「アナと雪の女王」のジェニファー・リーという組み合わせで、単独の女性監督作品としては最高額となる1億ドルの製作予算が投じられ、ディズニーが配給したにもかかわらず、ヒットしなかった。日本zでも公開が予定されていたが、本国で大コケしたため見送られてしまった。
しかし、現在ハリウッドでは、アメリカ史上初の女性大統領候補と言われるヴィクトリア・C・ウッドハル(Victoria Claflin Woodhull、1838~1927)の生涯を描く映画が、アマゾンスタジオで製作されている。
主演は、昨年「ルーム」でアカデミー主演女優賞を獲得したブリー・ラーソン。フェミニストを自認する彼女は、自らプロデューサーを兼ね、19世紀末の女性の政治的状況を描き出そうとしている。
といっても、知らない人が多い。アメリカ人ですらフェミニズム運動をやってきた人ぐらいしか知らないだろう。(参照:ウッドハルの「ハーバード大学図書館」の紹介記事→http://ocp.hul.harvard.edu/ww/woodhull.html)。
女性が選挙で投票することは犯罪だった
ウッドハルが大統領選挙に立候補したのは、いまから150年ほど前の1872年。南北戦争が終わってしばらくたった、まだ婦人参政権もなかったころ(アメリカでは1920年に認められた)の出来事であり、それも33歳での立候補だった。そのため、歴史家のなかにはその正当性を否定する人間もいる。
しかし、いちおう「the Equal Rights Party」(平等権利党)という第三政党の指名を得ているので、まったく根拠のない立候補ではなかった(ちなみに、合衆国憲法では、35歳に達しない者は大統領にはなれないとされている)。
当時の記録として、ウッドハルと同じような婦人参政権運動家が逮捕されたことが伝えられている。この女性は、100ドルの罰金を払うのを拒否したため投獄されたという。当時は、女性が選挙で投票することは犯罪だったのである。
それから、約150年を経て、アメリカの女性たちは誰を大統領に選ぶのだろうか?
先の選挙ではクリントン候補が民主党の指名を受けるのが確実だったため、候補とされた多くのリベラル系(民主党系)の女性たちが立候補しなかった。しかし、次回はわからない。民主党には、多くの女性候補がいるからだ。
次回、その候補者たちを紹介していきたい。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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