連載98 山田順の「週刊:未来地図」本当に心配になってきた安倍政権崩壊後の日本経済(中)

量的緩和の本当の目的は「金利ゼロ」

 現在、日銀は、年間80兆円(月に約7兆円)というものすごい規模で国債を引き受けている。政府が発行した国債をいったん民間金融機関に買わせ、それを買い入れている。政府から直接買い入れることは「財政ファイナンス」(国債の貨幣化=monetization、マネタリゼーション)として禁止されている。しかし、実際には、それを行っているのと同じだ。
 ところが、このおカネが市場に出て行かず、日銀に「ブタ積み」されている。付利が付くので、民間金融機関は日銀からおカネを引き出さないのだ。
 その結果、マネーストックはたいして増えず、期待されたインフレにはならなかった。それでも物価がやや上昇したのは、円安と消費税増税のせいである。
 じつは、日銀の国債買い入れは、10年債の利回りをゼロ%程度に抑圧するという別の目的を持っていた。これを「イールド・カーブ・コントロール」(yield curve control: YCC)という。つまり、金融市場の抑圧である。
 長期金利が上昇すると、国債利払い費がかさんで、政府の財政が持たなくなる。そのため、日銀は、政府のアシストをしたのである。
 要するに、量的緩和は見せかけであった。異次元ではなく「チョロ緩和」にすぎなかったのだ。
 長期金利がゼロなら、政府は国債発行による「借金」を続けられる。アベノミクスの金融政策は、こうした“危ない橋を渡る”もので、異常な政策である。
 その結果、この3月30日現在で、日銀の保有国債残高は416.4兆円に上った(日銀発表)。そして、日本政府の借金(国債及び借入金並びに政府保証債務)は、2017年12月末日現在で、1085兆7573億円となった。これはGDP比で約2.4倍。アベノミクスが始まる前は約2.1倍だったので、政府財政は悪化の一途をたどっている。

出口のない「進むも地獄、引くも地獄」に

 というわけで、以上の状況を踏まえたうえで、私たちは今後の日本経済を考えなければならない。
 つまり、世界の金融状況がどうなろうと、現在の日本の金融政策はやめられない。異次元緩和に出口はない。日本政府の予算は借金(=日銀による国債の買い入れ)なしには成立しないからだ。
 もし、日銀が国債買い入れをやめるとどうなるか?
 買い手がいなくなるのだから、間違いなく国債は暴落するだろう。つまり、長期金利が上昇する。そうなれば、円も株も暴落するのは間違いない。
 そんな日が来ることは信じたくないが、その可能性は大きい。
 しかも、出口がないとして、このまま緩和政策を続けても、いずれ円の通貨としての信用は失われる。つまり、「進むも地獄、引くも地獄」の状況に、いまの日本はあるのだ。黒田総裁は、こんな状況でよく続投を引き受けたものだ。しかも、すごいのは、国債ばかりか、ETF買いも続けていることだ。

「円安・株高」から「円安・株安」へ

 すでに、何度も書いてきたように、現在の日本の株式市場は、資本主義経済の下の株式市場ではない。日銀と公的資金が最大の買い手で、「下げたら買う」「上げても買う」を繰り返し、値を吊り上げているからだ。 
 日銀のETF買いは、2013年1.95兆円、2014年1.28兆円、2015年3.69兆円、2016年4.60兆円、2017年5.90兆円、2018年3月現在1.98兆円と続いてきて、現在、計19.4兆円も日銀は日本株を持っている。
 このETF買いも日銀はやめられない。やめて売りに転じれば、株価が暴落するのは確実だからだ。
 しかし、最近、東京の株価はこれまでの傾向と違った面を見せるようになってきた。この2月にNY市場が暴落したときは連れて暴落したが、その後、NY市場ほど値を戻さなくなった。もちろん、いったん円高になったこともあるが、最近、円安(ドル高)に振れているのに、株価は上がらないのだ。
 これまで、東京市場を支配してきたのは「円安・株高の法則」だった。円安になれば輸出企業の業績が上向き、株価も上昇するという考え方である。
 しかし、アメリカの長期金利(フェデラルレート)が3%を超えた時点から、流れは変わった。アナリストによると、「投資家は日本株を保有するより、金利の高い米国債に資金を振り向けたほうがよりリターンを得られると考え出した」からだと言う。
 たしかに、FRB(連邦準備制度理事会)は、今後も利上げに前向きな姿勢を見せている。そうなると、NY株もいままでのようには上昇しなくなり、債券に資金は移動する。そこに、日米の金利差が開くのだから、これからは「円安・株安」になっていくだろう。日銀や公的資金の買いが追いつかなくなる。
 円安は日本の輸出企業にとっては追い風だが、株価が下がってしまえば、その恩恵も吹き飛ぶ。
(つづく)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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