連載99 山田順の「週刊:未来地図」本当に心配になってきた安倍政権崩壊後の日本経済(下)

世界中が緩和を終わらせ、金利が上昇

 IMF(国際通貨基金)は、今年の世界の経済成長率を3.9%と、7年ぶりの高さになると予想している。つまり、世界経済は幅広い景気拡大を続けていくと見ているのだ。
 したがって、世界の中央銀行は緩和政策からの脱却を進めだし、そのせいで金利上昇が始まっている。この先陣を切ったのがFRBで、FRBは今年中に現在3.0%の10年金利をあと2、3回上げると見られている。
 すでに資源価格も上昇し、石油は1バレル=70ドルを突破した。世界の大都市の不動産市場も上昇している。インフレは進んでいるのだ。
 欧州でも中央銀行は出口に向かっている。ECB(欧州中央銀行)は今年中、早ければ9月にも量的金融緩和を終了するとしている。
 英国は、昨年11月に約10年ぶりに長期金利を利上げし、この4月で10年金利は1.54%となった。ちなみに、ドイツも0.63%、フランスも0.85%と上昇してきている。そして、英独仏とも、今後、金利はさらに上昇する見通しだ。
 ちなみに、中国も昨年7月までは3%以下だった10年金利は、現在3.59%まで上昇している。
 こうしたなか、はたして日銀は本当に緩和を維持していくのだろうか? 日本の10年金利は、現在0.05%とないも同然だ。2年金利、5年金利はいずれもマイナスである。

9四半期ぶりにGDP成長率がマイナスに

 経済予想、株価予想というのはことごとく外れることになっている。しかし、日本のような人口が減少する国で、経済成長が続くということは考えられない。毎年、約30万人の人口が失われるペースにともない、穏やかに衰退していくと考えるのが普通だ。
 それなのに、アベノミクスのような金融・財政両面で経済を刺激して、経済成長を目指すというのは、根本的に間違っていないだろうか。
 そんなことをするより、政府を小さくし、思い切った規制緩和を実行する。できれば減税する。こうすれば、おカネを使わないで、少なくとも現状は維持できるだろう。
 しかし、「政官財」ともデータ改ざんが横行するという信じられないほどの劣化が続くこの国を、内側から改革するのは無理だろう。“日本病”は、外から人材と投資を呼び込まないかぎり治らないと思える。
 あと1年以内で、いくら政府とメディアが「景気はいい」と言っても、国民が信じないということが起こるだろう。安倍首相が退陣すれば、その時期はもっと早まるだろう。最近、知り合いのエコノミストや企業人から、「オリンピック以後が本当に心配だ」ということを聞く機会が多くなった。
 内閣府は5月16日、今年の1~3月期の実質GDPの速報値を発表した。前期比マイナスになったのは2015年10~12月期以来、9四半期ぶりとなった。

「拡張の世紀」のなかで経済も大きく変わる

 かつて、世界経済は「米欧日」が中心だったが、いまや「米欧中」の3極体制になった。日本はこの3極とバランスを取りながら、なんらかの分野に特化していかなければ、いままで築いてきた富を食いつぶすだけになる。
 しかも、経済そのものは大きくかたちを変えている。これからは、モノに価値がある実物経済ではなくなり、それにともない資本主義自体も変質していく。
 現在、私は知人の勧めで、「拡張の世紀」(ブレット・キング著、東洋経済新報社、2018年3月、原題「Augmented: Life in the Smart Lane by Brett King」)という分厚い本を読んでいる。
 ブレット・キングは著名なテクノロジー・フューチャリストで、この本では、今後AIなど、どんどん進化しいく先端テクノロジーが私たちの生活をどう変えていくかを解説している。それは生き方そのものが「拡張」し、「スマート」化していくということだ。
 ブレット・キングは本書の「はじめに」で、いきなり、こう書いている。
《私の6歳になる息子のトーマスは、将来クルマを持つのに運転免許証を取らなくてもよく、クルマの所有さえしない可能性が非常に高い。代わりに、クルマを単に「時間借り」するだけになるだろう。彼はその人生を通じて、スマートデバイスを手放すことは決してしないだろう。近いうちにデバイスは、いつ医者のアドバイスを受けに行けばよいかを知らせてくれるようになる。住むのはスマートハウスで、掃除はロボットが行い、食料品は冷蔵庫や家庭用AIが注文してくれる。何を買うにも、支払いにプラスチックカードや小切手を使うことは全くない。そして毎日、マウスもキーボードもない何百ものコンピュータとやり取りする》
(了)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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