連載102 山田順の「週刊:未来地図」静かに、そしてじわじわ広がる 「東京五輪でボランティアなんかするな!」運動(下)

ボランティアを無償と考えるのは日本だけ

 調べてみると、そもそも、「ボランティア」(volunteer)という言葉は、「志願兵」「義勇兵」を意味する。その昔、十字軍やテンプル騎士団などの各騎士団に対して、自ら志願して兵隊になる人々を「ボランティア」と呼んだことに端を発しているという。
 したがって、そこに「無償」という意味は含まれていない。ボランティアという言葉に、「無報酬」(=タダ)という意味はないのだ。単純に、「自ら進んでなにかをする」ということである。
 したがって、そうした場合、なにかをしてあげた人や組織から、お礼として、報酬をもらったとしてもそれはボランティアである。これは、接客サービスの人が、客からチップをもらうことを考えれば、それと同じということがわかると思う。
 それなのに、日本におけるボランティアは、なぜか「無報酬で尽くすこと」=「美しい行為」のように解釈され、ひとり歩きしてしまったようだ。もちろん、災害時などではボランティアの力は必要だが、それ以外、まして誰かが利益を得るビジネスにボランティアがあってはいけない。
 ところが、役所というのは、これを平気でやる。
 たとえば、「まちおこし」でベンチャー養成のために、大企業で長年働き専門知識を持った人に講師やアドバイザーをお願いしたいなどという募集がある。これがボランティア(無報酬)で、「市のために協力してくれませんか」と言われて、出かけた知人がいる。彼は、「それでも若い起業家のためになるから」と言っていたが、これを民間がやれば当然、かなりのギャラが出る。
 また、引退した高齢者に、「体験農業をしませんか」という募集がある。これもボランティアで行くと、野菜づくりなどの農作業を手伝うことになる。「健康のためになる」「自然に触れられる」などと言って喜んでいるが、これは、タダ働きの農業労働ではなかろうか。

夏休みの炎天下で中高生を働かせる

 このように、ボランティアに対する批判が高まるなか、オリンピックのボランティアを中高生にまで広げるという動きが確実に進んでいるというから驚く。
 東京都では、18歳以上のボランティア募集と併せて、中高生向けのボランティアの募集枠を設けることをすでに発表している。これを要請したのは、組織委員会で、具体案に関して東京都と協議し、各学校に協力を求めるという。
 中高生向けのボランティアの主な仕事は、サッカーやテニスのボール拾い、入場待ちの観客向けの楽器演奏、競技会場外での道案内などが考えられるという。
 夏休みのど真ん中で、炎天下、学校からの半ば強制的な命令で、無理やりこんなことをさせられる中高生のことを思うと、大人たちは本当に残酷である。また、役人たちがなにも考えていないことがよくわかる。
 先のリオ五輪でも、この前の平昌冬季五輪でもあまりの待遇の悪さに「ボランティアの反乱」が起こったことを知らないのだろうか。

なぜスケジュールは真夏の7、8月なのか?

 組織委員会の正式な「ボランティア募集要項」の発表まで約3カ月、本番のオリンピックまであと約2年2カ月と迫った。現在、「東京五輪でボランティアなんかするな!」運動は、静かに確実に広がり、ネットでは圧倒的に批判する声が多い。
 はたして、これで11万人もボランティアが集まるのだろうか?
 「いっしょにやろうか」と言った私の友人は、もうとっくに興味を失って、「なにしろ真夏の炎天下だ。やろうなんて考えたほうがバカだったよ。家でテレビ観戦に尽きる。チケットもバカ高いしね」と言っている。
 東京オリンピックは2020年7月24日に開幕し、8月9日に閉幕する。これは、この時期のアメリカでは人気プロスポーツが開催されておらず、テレビ番組の編成に余裕があるからだ。IOCは、2014年のソチ冬季大会から、開催地が決まっていない2032年夏季大会までの10大会分のアメリカ向け放送権をNBCに約120億ドルで売ってしまっている。
 したがって、主な競技のスケジュールも、アメリカの東部時間に合わせて行われる。つまり、誰も選手のことなど考えていないのだ。まして、ボランティアのことなど誰が考えるのだろうか?

(了)

 
 
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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