摩天楼クリニック「ただいま診察中」(連載47)子どもの病気【7回シリーズ】子どもの肥満(上)

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加納麻紀
コーネル大学、マウントサイナイ医科大学卒業。マウントサイナイ医療センター提携病院の東京海上記念診療所ハーツデール診療所内科・小児科専門医。米国日本人医師会(JMSA)副会長。日系コミュ二ティー支援委員会委員長。2003年、NPOの育児支援グループ「すくすく会」を創設。

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米疾病管理予防センター(CDC)によると、米国の子どもの肥満(obese)率は1971年から2011年の40年間に約3倍に上昇。15年から16年には、6歳から19歳の子どもの約5分の1が肥満だった。この傾向が最近、これまで肥満とは縁がないといわれてきた日本人の子どもの間でも増えていると警鐘を鳴らすのは内科・小児科で治療に当たる加納麻紀医師。喫煙や違法薬物摂取をしのいで現在最も懸念される子どもの健康問題になった肥満について、その原因や誘発する疾病、肥満の予防・改善方法を聞く。

Q子どもの肥満の定義とは?
A 肥満の定義は大人と子どもでは少し異なります。大人の場合は体重と身長から肥満度を割り出す体格指数(BMI)で、25以上が「肥満」とされていますが、子ども(2歳から19歳)の場合は、身長・体重・年齢・性別を考慮したBMIパーセンテージで判定します。BMIパーセンテージが85%以上は「太り気味」、95%以上で「肥満」です。CDCのウェブサイトに計算表があります(https://nccd.cdc.gov/dnpabmi/Calculator.aspx)。計算方法は、①生年月日②計測年月日③性別④身長⑤体重をそれぞれ入力するというものです。この機会にお子さんのBMIパーセンテージを測定してみてはいかがでしょうか。

Q 肥満が誘発する病気にはどのようなものがありますか?
A 2型糖尿病、高血圧、脂肪肝、脂質異常症、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)などの生活習慣病です。膝が痛くなるなどの関節疾患や、睡眠時無呼吸症候群、ぜん息も体重が重い子どもほどかかりやすいようです。肥満または太り気味の子どもの血液を検査すると、コレステロールや中性脂肪、血糖値が高いことがあります。例えば中性脂肪の値は100以下が正常ですが200以上の子どももいます。

Qコレステロール、中性脂肪、血糖値の数値が高いと、内臓にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
A 人間の体を構成する細胞に存在する脂肪分、コレステロールにはいわゆる、悪玉(LDL)と善玉(HDL)があるのは皆さんご存知だと思います。LDLは血液の壁に蓄積し、HDLは血中の余分なコレステロールを肝臓に運んで、血中のコレステロールを減らす役割を果たしています。LDLが血液の壁に溜まると血管を詰まらせ、動脈硬化の原因となります。
 中性脂肪は体内に存在する脂質の一種で、糖質と動物性脂肪によって生成され、皮下脂肪として蓄積されます。中性脂肪が過剰になり血中に増加してくると、これもまた動脈硬化の原因となります。
 血糖とは血液中のブドウ糖のことです。ブドウ糖濃度は、すい臓から分泌されるホルモンの一種であるインスリンによって一定の濃度に保たれているのですが、そのインスリンが不足したり働きが弱くなったりすると、血中に多量の糖が存在することになります。高血糖の場合はまず糖尿病が疑われます。
 肥満の子どもは大人になってもその状態が続く例が多く、長期間にわたって血管や神経に損傷を与えることになります。CDCは、若年性肥満は大人になってからの心疾患、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、がん発症の危険性が高まると警告しています。米小児医学会は太り気味でなくても血液検査をしてコレステロール値をチェックするよう奨励していますが、肥満の場合は必ずフォローアップが必要です。
 またこれは病気ではないのですが、太ると女性ホルモンが活発になるため、思春期が早く訪れます。女の子の場合、通常は12歳から13歳で始まる月経が8歳ごろから始まることもあります。月経が早く始まると、思春期に身長が急激に伸びる時期も早く終わり、結果、思ったほど身長まで伸びずに止まってしまうことが少なくないです。また見逃せないのが精神面への悪影響です。「自分は太っている」という認識は劣等感につながり、自信を失いがちになります。

Q LDLや中性脂肪、血糖値が高くなる原因は何ですか?
A 大人の場合は過度の飲酒、不規則で偏った食事、運動不足、喫煙。子どもの場合は、まず考えられるのが運動不足。そして糖分や炭水化物、脂質が多い食事です。ファストフードやスナックをひんぱんに食べる子どもは要注意ですね。日本から米国に来た子どもが太り気味になるのは、米国式の食習慣に慣れていくからでしょう。現地校の給食はチキンナゲットやフレンチフライ、ピザといった「ファット&カーボ」の食べ物が中心。量も多いですよね。駐在員の奥さんの中には食生活の変化、車中心の生活、ストレスから、来米1年で5キロから10キロ増えたという人もいます。

Q子どもの生活習慣病の治療方法は?
A LDL、中性脂肪、血糖値が比較的「マイルド」な場合は生活習慣を変えることから始めます。すなわち、体重管理、運動、食事療法です。これらはそれぞれ独立してLDLや中性脂肪、血糖値のコントロールに効果的です。

Q 薬は使わないのですか?
ALDLを下げる薬は、肝機能の低下や筋肉痛などの副作用があるので子どもへの投薬は慎重に行います。

Q 経過観察中は目標を設定しますか?
A1カ月に1キロの体重減を目指します。ただし、脂肪が筋肉に変わると体の密度が増えるため、体重だけでは判断できません。血中のLDL、HDLと中性脂肪が1つのパネルに表示されるリピッドパネルで経過を観察します。また、2型糖尿病のリスクがある子どもはヘモグロビンA1c(HbA1c)の数値を見ます。

Q聞き慣れない名前ですね。
AヘモグロビンA1cは、血液中のヘモグロビンがブドウ糖と結合したもので、「糖化ヘモグロビン」とも呼ばれます。赤血球中のタンパクであるヘモグロビンは体全体を循環し酸素を供給しながら徐々にブドウ糖と結合していきます。糖が過剰なほどヘモグロビンA1cが増え、その値が高い=血液中のブドウ糖が多い、すなわち高血糖ということになります。ヘモグロビンA1cの値が基準値より高いと、糖尿病をはじめ、さまざまな病気を引き起こす可能性が高くなります。

QヘモグロビンA1cと血糖値はどう違うのですか?
A血糖値は血液検査をした時点での血糖状態を表したものです。したがって食前と食後、何を食べたか、ストレス度などで数値が容易に変動します。ヘモグロビンA1cは過去3カ月の血糖状態を表すため、正確なデータを得ることができます。(つづく)