連載105 山田順の「週刊:未来地図」 米朝首脳会談は史上最大の茶番劇か? 日本は大損するだけなのか?(下)

(連載104から続く)

譲歩ではなく「嫌がらせ」戦術との見方も

 トランプの米朝会談再開を、北朝鮮への譲歩ではないとする見方もある。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は「トランプ氏は北に譲歩したのか?」というYahoo!ニュース個人欄の記事で、関西大学の李英和教授の見解を引用して、この見方を肯定している。

 李英和教授は、「これはトランプ流の嫌がらせでしょう。金正恩への圧迫戦術です。複数回の会談は金正恩が耐えられないし、段階的と言ったところで、その間に何も得られないのですから、金正恩はさらに追い込まれるだけだと思います」と指摘して、その理由を2つあるとしている。

 2つの理由とは、以下の通り。
 1つ目: 北朝鮮の経済の疲弊が進み、制裁解除と支援獲得が急がれるから。
 2つ目: 軍部の不満。首脳会談を重ねても、もらえるのは朝鮮戦争の終戦協定に関するペーパーなどで、肝心の金銭は入って来ない。めぼしい大義と対価をなかなか得られないと、軍部が反発する。

 つまり、トランプは段階的な非核化を容認しても、完全なる非核化が達成されるまで、見返りは一切与えない。そうなると、北朝鮮の疲弊は深刻化し、北朝鮮の体制が揺らぐと考えているというのだ。いずれ、白旗を掲げて降参してくるなら、まずは会談をやって様子を見たうえ、じわじわ締め上げる作戦ではないかというのだ。
 たしかに、そういえないこともない。しかし、そう断言することは難しい。それは、トランプが類まれなるナルシストで、世界平和より自身の名声、プライドを優先する性格だからだ。

「人権」に関してはなにも話していない

 ここで、前回紹介したホワイトハウスのHPに載ったトランプ発言に戻ると、トランプは「人権」に関しては、次のように言っている。
《記者団: 今日(金英哲氏との会談で)、あなたは人権について話しましたか? そして人権について話すことを期待しますか?
 大統領: いや、話はしなかったよ。
 記者団: 人権について6月12日に(首脳会談で)話すことを期待しますか?
 大統領: できればね。もちろん、できればやる。思うに多分やれるし、細かくつめられるだろう。ただわれわれは(今日は)人権については話してはいない》

 トランプの腹の内はわからない。ただ、今日まで見てきた限り、彼には信念、理念というものがない。そういう人間がトップである国と、強固な同盟を結び、その庇護下で生きていくことがどういうことか、今回の米朝会談はそれを考えるいい機会になるだろう。

 ワシントンポストやCNNなどの報道によると、北朝鮮は金正恩のシンガポールのホテル代も払えない状況で、アメリカ側に負担を頼んでいるという。金正恩は5つ星ホテルの「フラトン・ホテル・シンガポール」の最高級スイートを希望しているが、宿泊費は最低でも1泊あたり6000ドルはする。これが、外貨不足で払えないというのだ。
 もちろん、アメリカ側は拒否する構えだが、国民を苦しめたうえ自分だけ他国のカネでスイートに泊まろうとする独裁者と、いったいどんなディールができるというのだろうか?
(了)

 
 
column1-2

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com