日本の薬剤師・薬学博士で、現在はコロンビア大学博士研究員の樋口聖先生による「米国市販薬(OTC)講座」。胃腸薬や鎮痛剤など、毎回テーマを絞り、OTCの種類や、安全な選び方を教わる。先生自身、在米3年が経っても米国のOTCには驚かされることもしばしばだという。「一緒にファーマシーを紙面探訪して、賢い消費者になりましょう!」
第11回 「抗肥満薬」
肌の露出が増える夏、気になるのが脂肪とぜい肉。ダイエットしようと思っても長続きしない、なかなか体重が落ちないと嘆くあなた…。諦める前に、こんなOTC薬があるのをご存知でしたか? 米国では「抗肥満薬」が販売されています。飲むだけでやせる魔法の薬ではありませんが、知っておくとよいでしょう。
脂肪の吸収を抑制
まず最初に、肥満の薬と聞いて、「飲むだけでやせる」と勘違いしてはいけません。どんなダイエットもバランスの取れた食事と運動は必須です。これを踏まえて今回紹介するのが「抗肥満薬」。この種の薬は「体重を落とす」ものではありません。「脂の吸収を阻害する」ことで肥満を防止する仕組みになっており、糖分には作用しません。
食べ物に含まれる脂(トリグリセリド)はそのままの状態では小腸で吸収されず、リパーゼという消化酵素が分解することにより、小腸で吸収されます。このリパーゼの働きを抑えるのがオルリスタット(Orlistat)という成分で、米国では「alli」という商品名の薬が販売されています。また、中枢神経に作用することで摂食を抑え肥満を防ぐ薬や、胃排出速度を遅くしたり、中枢神経に働きかけたりして満腹感を得る作用のある薬もありますが、私が主要な薬局を回って店頭で実際に見つけたのは「alli」のみでした。
オルリスタットの効果は、4年にわたる複数の調査によると5.8から6.7キログラムの体重減少が報告されています。ただし、小腸で吸収されなかった脂がそのまま排泄さるため、脂肪便になる場合が多くなるでしょう。ちなみに、「満腹」を表現する英語は「satiation」と「satiety」の2種類があり、「satiation」が「食べたときの満腹感」を表すのに対し、「satiety」は「次の食事までの間隔が長くなること」を表すそうです。腸の中で脂質はこの両方に作用し、上手に食欲を調節しています。抗肥満薬は日本でも開発が進められていますが、この種の薬は現在も販売はされていません。
副作用に注意
オルリスタットの服用には注意点も多く、消化吸収に問題があると診断されたことのある人、肥満ではない人は服用しないよう警告が記されています。また、臓器移植後の拒絶反応を抑える免疫抑制剤(シクロスポリン=Ciclospolinなど)の働きを阻害しますので、該当する人は服用しないでください。その他、胆嚢に疾患がある人や腎臓結石、膵炎を経験したことのある人も、服用を検討の際は医師に相談してください。
知っておきたいファーマシー用語
OTC(Over The Counter)Drug
=一般用医薬品(俗にいう市販薬)。処方せんがなくても薬局で買える薬。
Active Ingredient=有効成分(薬効を示す物質)。薬の箱の裏に明記されている。
樋口聖 Sei Higuchi, Ph.D.
博士(薬学)、薬剤師(日本の免許)。城西大学大学院・薬学研究科修士課程修了、福岡大学大学院・薬学研究科博士課程修了後、京都大学医学部博士研究員。2015年からコロンビア大学博士研究員として、糖尿病の研究に従事。