連載106 山田順の「週刊:未来地図」 人口減、人手不足から日本だけで進む 「女性残酷社会」(上)

 日本はいまだに、世界でも最悪の男性支配社会で、女性の社会的地位は低く、いくら働いても報われない。しかし、メディアはこの現実を真剣に取り上げない。安倍政権は「女性が輝く社会づくり」に取り組んでいるとされるが、それは結局、女性たちに「もっと働け。そうしなければ日本経済はますます衰退する」と脅迫しているのと同じだ。人口減、人手不足を、女性の労働力で補おうとしているだけなのだ。
 その結果、女性は「出産、育児、家事、介護」のほかに、男性と同じ「労働」までこなさなければいけないことになってしまった。まさに「女性残酷社会」が、人口減、人手不足のなかで、確実に進行している。

専業主婦はいまや働く主婦の半数しかいない

  「専業主婦」が「働く主婦」に比べて幸せとはいちがいには言えない。しかし、生活のために単純労働に出なければならないとしたら、専業主婦のほうがはるかに生活に余裕があるのは間違いないだろう。そうでなければ、この時代、専業主婦を「勝ち組」などとは呼ばない。
 ところが、現在、専業主婦が激減している。これは、世界的に男女平等化が進み、女性の社会進出が進んだ結果と一般的には言われている。しかし、日本の場合はまったく違う。ずばり、経済衰退が原因だ。従来のように男性の稼ぎだけでは家庭を支えられなくなり、女性も働かざるを得なくなったからだ。端的に言うと、女性は無理やり労働市場に引っ張り出されているのである。
 厚生労働省の統計によれば、現在、「共働き世帯」(働く主婦のいる世帯)は約1077万世帯で、男性雇用者と無職の妻からなる「専業主婦世帯」は約720万世帯となっている。つまり、専業主婦は共稼ぎ主婦の約半数しかいない。次に、共働き世帯と専業主婦世帯の推移グラフを示してみるが、これを見れば、1980年からの2015年までの35年間で、両者の数がまったく逆転したことがわかる。このグラフをさらに未来に伸ばしていくとどうなるだろうか? おそらく、あと20年もすれば、専業主婦は死滅してしまうのではないだろうか。

★共働き世帯と専業主婦世帯の推移(1980~2015)*厚生労働省「男女共同参画白書」
http://foimg.com/00065/FNBshC

「女性の輝く社会」の中身は空っぽ

 政府は現在、「女性が輝く社会」というスローガンを掲げている。官邸のHPには、「すべての女性が輝く社会づくり」という項目があり、そこに政府が進めている取り組みが紹介されている。しかし、それらの評判は、本当によくない。とくに、当の女性たちの評判は最悪である。
 安倍内閣というのはスローガンが大好きで、「女性が輝く社会」以外にも、アベノミクスの「3本の矢」から始まって、「1億総活躍社会」「人生100年時代」「GDP600兆円」など、まさに次々とスローガンを打ち出してきた。その中でも、「女性の輝く社会」の評判は最悪なのである。なぜなのだろうか?
 それは、政策の中身が乏しいうえ勘違いが多く、それで本当に女性が輝くとはとても思えないからだ。たとえば、当初「2020年までに官民の指導的地位に女性が占める割合を30%程度とする」と宣言されたが、この目標は、1年足らずのうちにうやむやにされてしまった。なぜなら、そうすると官公庁での課長クラスの男性の多くを排除しなければならなくなるので、官僚たちが抵抗したからである。官公庁がこれなら、民間はこれに倣う。
 安倍首相自らが言い出したという「3年抱っこし放題育休」というのもあった。育休を伸ばして3年間休んでいいというものだったが、多くの働く女性が望んでいたのは、産休&育休明け保育の充実で、3年間も職場を休みたいとは思っていなかった。そのため、政府の勘違いぶりに、多くの女性たちから非難の声が上がった。
 このようなことから、結局、政府が狙っているのが、単なる女性の労働参加であり、それによって経済を支える、人手不足を補うことだと、見抜かれてしまったのである。

女性10人のうち7人が働いている社会

 ここに驚くべき数字がある。2017年版「男女共同参画白書」(2017年6月閣議決定)で明らかにされたもので、それによると、2016年の女性(15~64歳)の就業率は前年比1.4ポイント上昇の66.0%となり、1968年の調査開始以来、過去最高を更新したというのだ。これを政府は、素晴らしい成果としている。また、メディアもそれなりに前向きに取り上げた。なぜなら、この66%という数字は、女性の社会進出が進み、男女共同参画社会が進行している表れと言えるからだ。しかも、この女性の就業率は、アメリカの64%を上回っていた。ただし、15歳から54歳までの年齢で見ると、日本の女性就業率は73.9%(OECD女性就業率ランキング2017年度版)で、OECD加盟41カ国中26位となっている。
 働く女性の割合が増えたこと(全世代にわたって)が、はたしていいことなのだろうか? むしろ、逆で、この数字は日本の女性がますます不幸になっていることを表しているのではないだろうか? というのは、女性の労働の雇用形態の多くが、時間給のパートやアルバイト、あるいは派遣や嘱託などの契約労働だからだ。つまり、いくら働く女性が増えたとはいえ、その働き方は単純労働が中心で、報酬も安いし、社会的地位も低いのである。
 女性の労働に関しては「M字カーブ」ということが、これまでよく言われてきた。これは、女性就業者の年齢をグラフにしてみると、30~40歳代の部分がぐっと落ち込んでM字状になるからだった。30~40歳代というのは、女性にとって出産・育児期にあたり、そのときに労働現場から離れることをM字カーブは反映してきた。しかし、最近はこのM字カーブが薄れてきている。つまり、その時期においても、女性は働かなければならなくなったのだ。しかも、いったん離職して出産・育児後に復帰した場合、仕事のほとんどはパートやアルバイトになってしまう。(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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