連載109 山田順の「週刊:未来地図」 人口減、人手不足から日本だけで進む 「女性残酷社会」(完)

女性も一生働き続ける「人生100年時代」

 さらに、政府はいま「人生100年時代」を打ち出している。この5月31日、自民党の「人生100年時代戦略本部」(本部長:岸田文雄政調会長)は、高齢化が進むなかで、年齢によって区切るこれまでの社会保障のあり方を見直す提言を政府に提出した。
 「人生100年時代」というのは、英ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏らが著したベストセラー「ライフシフト」の考え方をまねたもので、これからの人間は寿命が延びるにつれて、人生設計を変えていかなければないということが述べられている。
 つまり、「人生100年時代」になると、これまでのように、「教育→仕事→引退」の順に同世代がいっせいに進行していく「3ステージ」の人生は通用しなくなる。100歳まで生きるとしたら、80歳から20年もあるわけで、人生を「マルチステージ」にシフトしなければならないというのだ。要するに、人間は一生働き続けて死ぬ。もう引退はあり得ないというわけだが、これは女性の人生も同じということだ。もはや、女性も男性と同じように、一生働き続けていくという人生にシフトせざるを得ないのである。

専業主婦になれる割合はなんとたったの2%

 考えれば考えるほど、これからの日本女性の人生は残酷だ。結婚できない女性が増え、少子化が進むのも、その理由を見ていくと納得するほかない。
 ここ半世紀、女性を取り巻く状況は大きく変わった。1970年と現在を比べてみると、女性の平均寿命は74.66歳から87.14歳へと、なんと10歳以上も伸びた。その一方で、女性の平均初婚年齢は24.2歳から29.4歳と5歳以上上昇し、平均第1子出産年齢は25.6歳から30.6歳と、こちらも5歳も上昇した。
 そうしたなか、日本はバブル経済期の「1億総中流社会」をピークとして、四半世紀にわたって衰退を続けてきた。この間、たしかに日本女性の社会進出は進んだ。女性が男性とともに働く社会が実現した。しかし、それは上辺だけのことで、アメリカや欧州のような社会とはまったく異質の社会ではないだろうか。
 最近、私の目にとまったのは、「専業主婦に必要な夫の条件」というブログ記事だ。この記事によると、「30歳時点で年収700万円(夫婦2人だけなら500万円)、退職金2000万円、30歳時の貯蓄額300万円」の男性でないと、専業主婦にはなれないというのだ。そこで、どれくらいの女性が専業主婦になれるか計算すると、なんとたった2%だとか。
 いまの日本の状況を変え、経済衰退を防ぎたいなら、女性の力を使うしかないと考えることは間違っていない。なぜなら、現在の女性の能力は男性をしのぐからだ。
 しかし、いまのようなやり方では女性を不幸にするだけだろう。たとえ何割かの男性を切り捨てても女性をもっと登用する。クオータ制には反対が根強くあるが、それでもなお、強制的に女性に地位を与えなければならない。賃金も男性と同じにするのは当然だ。そう思うと、最近の財務省セクハラ事件などには腹が立って仕方がない。(了)
 なぜ、日本社会は女性をもっと大切にしないのだろうか?

column1-2

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com