連載111 山田順の「週刊:未来地図」 東京五輪は“奴隷の祭典”か? ボランティア募集の勘違いといくつかの懸念(中)

通訳から運転手までタダで何千人も募集

 組織委員会が、本当に虫がいいと思うのは、ボランティアの活動が単純なお手伝い仕事ではすまないことだ。募集要項によると、活動分野は「会場案内」「運営サポート」など9分野に及んでいるが、そのなかには「移動サポート」(関係者の移動車両の運転)、「ヘルスケア」(救護・医療活動のサポート)、「テクノロジー」(通信機器の貸し出し、競技会場内で競技結果の入力や表示)、「アテンド」(海外要人等の接遇、選手や関係者の外国語でのコミュニケーションサポート)など、専門的なスキルが必要な活動もあることだ。しかも、その募集人数が半端ではない。
 たとえば、「アテンド」で8000~1万2000人とされているが、英語はいいとして、世界各国の言語がこなせる通訳者が都合よく大人数集まるだろうか? また、仮にそういう人が大勢いたとしても、彼らは通訳者として仕事をすれば1日少なくとも数万円を稼げる。それなのに、なぜ10日以上も無償で働かなければならないのか、まったくわからない。
 さらに驚くのは、この「アテンド」のなかに「競技を終えた選手がメディアからインタビューを受ける際に、外国語でのコミュニケーションサポート等を行います」とあることだ。これは、どう見ても公式のメディアインタビューである。そんなことをボランティアにまかせていいのだろうか?
 「移動サポート」もまた信じられない。これは、「オリンピック・パラリンピック関係者が会場間を移動する際に車を運転し、快適な移動となるようサポートします」とあるが、それをボランティア運転手に任せるというのだろうか? 募集人員は1万人~1万4000人となっているが、そんなにドライバーが集まるのだろうか?
 もし、集まったとしても、単なるスタッフが移動するための運転手である。とても、ボランティアなどと呼べる活動ではない。
 このほか、私の仕事関連で言うと「メディア」(2000~4000人)という項目もある。
 これは、「国内外のメディアが円滑に取材ができるよう、各種サポートを行います」「記者やフォトグラファーの取材の管理サポート等のほか、記者会見をスムーズに行うための準備・運営サポートを行います」「東京2020大会を記録するための記録用写真および動画の編集サポートや選手村の新聞制作のサポートを行います」となっている。
 そこで、メディアを引退した私の知人たち数人に聞いてみたが、そんなバカなことに応募するわけがないだろうと、みなあきれていた。また、こう言った人間がいた。
 「大学でジャーナリズムなどを専攻している学生をこき使おうという魂胆なのではないか」

「コンパクト五輪」があきれる不祥事続き

 これ以上書いても虚しいので止めるが、組織委員会HPには「オリンピック・パラリンピックの成功は、まさに大会の顔となる大会ボランティアの皆さんの活躍にかかっています」と、高らかに述べられている。
 IOCに「コンパクト五輪」「市民の五輪」を提唱して誘致に成功した東京五輪は、いまや、巨大な国家プロジェクトと化している。当初の計画案では、大会運営費用や会場整備費は3013億円だった。
 それが、いつの間にか6倍の1兆8000億円に拡大し、そのうえに東京都が負担する大会後整備費用2241億円がのって、なんと2兆円を大きく上回ることが明らかになっている。しかも、これは、厳然たるスポーツビジネス、収益ビジネスである。ボランティアによって人件費を抑えて上げることができる収益は、市民には還元されない。
 いったい、ボランティアはなんのために参加するのか? 炎天下の夏の日、いったい誰のために汗を流すのか? これでは「奴隷の祭典」と批判されて仕方ないだろう。
 それにしても、今回の五輪は、初めから不祥事続きだった。もう忘れた人もいるかもしれないが、五輪事業は大会エンブレムの「パクリ」疑惑から始まり、その後、次々に不祥事が起こった。新国立競技場のデザインと建築費を巡っては、当初案が白紙撤回され、デザイナーに数十億円の違約金まで払っている。また、カヌー・スプリントやボートの競技会場は、二転三転した。
 つまり、初めから計画は杜撰で、これが几帳面な日本人がすることかということばかりだったのだ。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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