連載112 山田順の「週刊:未来地図」 東京五輪は“奴隷の祭典”か? ボランティア募集の勘違いといくつかの懸念(下)

ボランティア以外で懸念される数々のこと

 現在のところ、ボランティア問題はどうなるかわからない。なによりも、組織委員会が、こんな募集要項でボランティアが集まると考えているのだから、どうしようもない。
 さらに、ボランティア以外にも、まだまだ、懸念されることは数多い。そこで、最後にそれらを列記して、この記事を終わらせたい。

《灼熱の“日本の夏”開催》

 スポンサーである米国NBCとIOCの都合で、選手にとっても観客にとっても最悪の条件である“日本の夏”開催となった。東京都では「東京2020大会に向けた東京都『暑さ対策』推進会議」を設け、暑さ対策、熱中症対策を話し合っているものの、こればかりは蓋を開けてみなければわからない。ただ、陸上競技などは少しでも涼しい午前中や夜に行われる。

《訪日観光客数が激増?》

 不思議なことに、日本の真夏という悪条件にもかかわらず、外国人観光客は激増するという試算がある。2020年は、オリンピック効果で訪日外国人客数は、政府目標の4000万人を超すという。これは、訪日外国人客数が年々増加し、昨年(2017年)には2869万人と過去最高を記録しているからだろう。
 しかし、本当にそれほど来るだろうか?
 五輪関係者や選手関係者、そしてその周囲の家族、友人、サポーターなど以外の純粋な観戦・観光客がそれほど来るだろうか? 少なくとも欧米からは、うだるような暑さの真夏の東京にわざわざやって来るとは思えない。
 それに、増加中の訪日外国人客は、その7~8割はアジア圏からであり、そのなかでも中国からがもっとも多い。したがって結局は、中国人観光客が大挙してやって来る可能性がもっとも高い。

《宿泊施設不足》

 訪日外国人客数の増加により、宿泊施設数が足りないと、長いこと言われてきた。五輪では客数が少なくとも3割増しになるため、東京では2~3万室が足りなくなると言われてきた。しかし、建築ラッシュ、民泊新法の施行などにより、もう十分足りているという見方も出ている。
 いずれにせよ、懸念されるのは五輪以後、不動産下落とともにホテル倒産などが一気にやって来るのではないかということだ。

《地下鉄・タクシーほかの交通問題》

 東京で外国人観光客がいちばん困るのが、鉄道路線、とくに地下鉄が複雑すぎるうえ、標識がよくわからないこと。スマホや地図片手に困っている姿をよく見かける。現在、標識の英語やそのほかの外国語対応は進んでいるが、それでも解消されない心配がある。
 また、タクシーは運転手に高齢者が圧倒的に多く、ほぼ英語が理解できないので、外国人には評判が悪い。知人のアメリカ人はこう言う。
 「東京でタクシーに乗ると、運転手が高齢なので運転に不安があるうえ、重い荷物を持てない姿を見ると気の毒になる。だから、あまり乗らないようにしている」
 この問題は、おそらく解消されない。また、ウーバーは日本では認められていないし、エアビーアンドビーも同じく認められていないので、こうしたことに慣れている外国人は、本当に不便に感じるだろう。

《WiFi接続、ネット環境》

 「日本は無料WiFiが少なくて不便」という声は、ここ数年ずっと訪日外国人客の不満のトップだった。しかし、最近はだいぶ解消されてきた。また、プリペイドSIMも販売され、2020年には5Gのサービスも始まるので、ネット環境は画期的に改善されることになっている。

《いまだにキャッシュ社会》

 私は、日本に来る外国人には必ず、手持ちのお金のいくらかを日本円に両替するように言っている。そうしないと、それみたことかとなる。タクシーの運転手はカード支払いに慣れていないし、電車の券売機はカードが使えない。また、街中の小売店や飲食店では、いまだに現金しか扱わないところがあるからだ。
 とくにキャッシュレス社会になった中国人は、不満たらたらだ。しかし、最近では「アリペイ」「ウィーチャットペイ」を導入する店も増えているので、じょじょにだが解消されてきた。ただ、2020年までにどの程度キャッシュレス化が進むのかはわからない。

《ゴミ箱がない》

 東京は世界でも清潔な街とされ、「ゴミ1つ落ちていない」と外国人観光客は驚く。しかし、もっと驚くのは街中や駅にゴミ箱がまったくないことだ。また、街角に灰皿(灰皿付きゴミ箱)すらないことだ。
 日本では自分で出したゴミは自分で持って帰ることが習慣化しているが、外国人にはこの習慣がない。しかし、これからゴミ箱を設置する予定はなく、マナーの問題として「環境を守ろう」と呼びかけることにするという。本当に、それで大丈夫なのだろうか?

警備人員も圧倒的に不足するという見通し

 というわけで、あと2年にせまった東京五輪だが、はたしてどうなることやら? 最後の最後に、警備人員も足りないという話を書いて終わりにしたい。
 今年の4月、警察庁が民間の警備業者を対象とし、人員の確保について実態調査を行った。その結果、なんと工事現場における交通誘導やイベントでの雑踏警備などで、90%以上の業者が人手不足と感じているということがわかった。2016年末時点の業者数は約9400、警備員は約54万人で、ここ数年は横ばいで推移しており、増える見込みはない。このまま東京五輪をむかえると、深刻な警備人員不足に見舞われるのは間違いないというのだ。
 ボランティアもそうだが、必要な人手が集まらなかったらどうするのだろうか?
(了)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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