連載114 山田順の「週刊:未来地図 日本経済SOS(1)量的緩和の限界 東京五輪を前に景気減速から財政破綻に向かうのか?

欧米はやめても日本は緩和をやめられない

 すでにアメリカは量的緩和を止め、FRB(米連邦準備制度理事会)は金利の引き上げを実施している。6月13日に開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、年内にあと2回、来年も3回の利上げを行うことが発表された。本稿執筆時点で、FFレート (Federal funds rate)は1.90%、10年債の金利(長期金利)は2.88%である。すでに日本とは約3%も開いている。
 また、ECB(欧州中央銀行)も、この6月14日、3年前から行ってきた量的緩和を年内で終了する方針を決定した。
 アメリカに続き、欧州も緩和をやめる。こうなると、日本も緩和をやめないと、通貨としての円は暴落しかねない。大量の円が流出する可能性がある。

 しかし、日本の異次元緩和は、欧米のように経済状況が好転したからといってやめることはできない。もう後戻りできないのである。なぜなら、「ゼロ金利」でないと、国家財政が破綻しかねないからだ。
 これは、政府と日銀が異次元緩和をやめると宣言したと仮定したとき、どうなるかと考えてみればわかる。
 そうなれば、まず間違いなく株価は暴落するだろう。いまの日経平均株価は日銀とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によって買い支えられている。そのマネーがなくなるのだから、株価は持ちようがない。
 もちろん、これまで抑えつけられてきた国債金利も跳ね上がる。緩和をやめるということは、もうこれ以上、日銀が国債を買わず、逆に売りに転じるということだから、「ゼロ金利」は維持できなくなる。
 国債金利が上がれば、国家予算に占める利払い費は増える。現在、国債利払い費は約10兆円だが、金利が1%上がっただけでさらに約10兆円が必要になる。3%になれば約30兆円が必要となり、政府は予算が組めなくなってしまう。つまり、日本の金融はすでに詰んでいて、金融緩和をやめるわけにはいかないのである。
《灼熱の“日本の夏”開催》

 スポンサーである米国NBCとIOCの都合で、選手にとっても観客にとっても最悪の条件である“日本の夏”開催となった。東京都では「東京2020大会に向けた東京都『暑さ対策』推進会議」を設け、暑さ対策、熱中症対策を話し合っているものの、こればかりは蓋を開けてみなければわからない。ただ、陸上競技などは少しでも涼しい午前中や夜に行われる。

じつはみんな知っている国債金利はインチキ

 それでは、今後も日銀はおカネを刷り、それで国債を買い続ければいいではないか。 政府はこれまで通り、毎年、大量に国債を発行し、それで得たおカネで国を運営すればいいではないかと言う人がいる。
 しかし、そんなことはできようがない。この世に「永久機関」がないように、たとえ政府であろうと永遠に借金で暮らし続けることなどできないからだ。つまり、いずれ「ドゥームズデイ」(終末の日)がやって来る。これ以上、国債を発行すると、財政破綻してしまうという日が来ることになる。
 ここでは、「日本が財政破綻するかしないか」という議論はしない。こうした議論があることはわかるが、「財政破綻しない論」は国民を安心させるため、あるいは現状を続けるためだけの方便にすぎないからだ。

 日本の金融市場に話を戻すと、これまで述べてきたことから、現在の国債金利はインチキということがわかると思う。限りなくゼロに近い金利は、異次元緩和による金融抑圧の結果であり、市場の取引を反映したものではないからだ。
 このインチキを、じつは市場参加者はみな知っている。また、株価に関しても、政府の「PKO(Price Keeping Operation:株価維持政策)」であることは、みな知っている。
 しかし、このインチキがそう続かないサインが、冒頭に述べた国債の市場取引の不成立なのである。
 今回の不成立で、日銀は一時的に国債の買い入れ額を減額した。一時的に緩和をやめたのである。では、一時的ではなく本当に買い入れをやめたら、どうなるだろうか?
 そうなれば当然、国債の市場取引は復活し、活発化する。つまり、市場取引が成立して金利は急上昇する。このとき、長期金利が2%になったとしたら、現在、日銀の当座預金に500兆円近くをブタ積みしている金融機関は、それをそのまま置いておくことはできない。日銀から国債を買って当座預金を減らす必要が出てくる。
 こうして、ついに本当に市中におカネが出て、インフレがやって来る。このインフレが悪性だと、私たちの生活は一気に困窮する。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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